ライオンのおやつ_b-thumb-443xauto-83154

ライオンのおやつ(小川糸/ポプラ社/本屋大賞ノミネート候補作品)

<著者について>
小川糸さん

1973年生まれ。デビュー作 『食堂かたつむり』(2008年)以来30冊以上の本を出版。作品は英語、韓国語、中国語、フランス語、スペイン語、そしてイタリア語など様々な言語に翻訳され、様々な国で出版されている。『食堂かたつむり』は、2011年にイタリアのバンカレッラ賞、2013年にフランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞した。またこの作品は、2010年に映画化され、2012年には『つるかめ助産院』が、2017年には『ツバキ文具店』がNHKでテレビドラマ化された。

本屋大賞とは?>

画像1


2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。


<あらすじ>

若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。

ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。

<感想>

涙が止まりませんでした。
主人公の雫がまだ30代であったこと、また独身でかつもう家族が少なかったことに、同情したからではありません。

なぜおやつなのか?と思われますでしょ?
人は自分の一生を、偏った記憶から紡ぎ出していくのではないでしょうか。そこで再現できるその時の味、おやつを味わう。他の入居者の思い出の味も思い出とともに味わいながら物語は進んでいきます。おやつに限らず、特にお粥の描写は、食べていないこちらまで力が湧きそうな、小川さんならではのものです。技いらずですもの、トッピング工夫してことこと、お粥さんを作りたくなりますよ。

将来の現実的な不安に囲まれている若い人には、死が近いものでなくても、「人の幸せとはどれだけ周りの人を笑顔にできたかであるのでは」を、きれいごとではなく感じられることと思います。家族の介護など、その時をやり過ごすことに精一杯の方々には、後に介護が終わりぽっかり穴が空いた時に、誰かの死に寄り添えたことに誇りを持てて、ふっと救ってくれるような本だと思います。去年祖母を見送る母の姿を見ていてそう感じました。この世にはもういない人達との雫との会話は、誰かに当てはまりそうです。みんなが生まれた時から死まで平等ではないと、最初は少し角度が違うくらいだから気づかずにいたその道を貫かなければならない人生を、人生ままならないことばかりと感じている気持ちを、その障害乗り越える楽しさまでは得る方法を得られる!は大袈裟ですが、自分の強さを発見できて、捨て鉢ではない良い意味での「なるようになる」気持ちにさせてくれる本ですよ。

一時期「頑張って」と励ますことをためらう風潮がありました。もう十分頑張っている人に、さらにがんばれと言うことは追い詰めるだけだから、頑張ってという言葉は使わない方がいいと言われていました。大人になりすぎたせいか頑張れ!と言ってくれる人がいなくなったけれど、このがんばれ!が好きな私は作者とつながったようで、うれしい気持ちになりました。第一の幸せになれる方法は、まず美味しいものを笑って食べる。これからならできそう!そして、この本に出逢えたから、作り笑顔ではなく周りの人たちを幸せにできそう!

毎日をもっと大切にしたくなる物語でした。


文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです