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52ヘルツのクジラたち(町田そのこ/中央公論社/本屋大賞ノミネート受賞作品)

久々のアップです。引き続きよろしくお願いします。

<著者について>
町田そのこさん

福岡県生まれ。子供の頃に、氷室冴子さんの『クララ白書』を読んで、将来は作家になりたいと考えるようになったとのこと。学生時代から小説や学生演劇の台本を執筆を始め、2016年「カメルーンの青い魚」で新潮社が主催する第15回女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞。2021年、「52ヘルツのクジラたち」で本屋大賞を受賞した。現在も福岡在住。

<本屋大賞とは?>

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2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。

<あらすじ>

52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。

<感想>

『とにかく声をあげて』と訴える町田さんの想いが、強烈に伝わってくる、痛々しくても力強さのある作品です。

二十代前半まで自分の人生を家族に搾取されてきた女性真湖と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年が出逢い、そして新たな魂の物語が生まれます。

二人の育ってきた環境にも、再生の過程の人との交わりも重く、苦しく、悲しい負の連鎖がみられます。だから読者は自分はどうしたらよいのだろう?と、心の落ち着場所なく困ってしまうかもしれません。
が、いつもの虐待の物語とは違うんです。


虐待の事は、子供は親を選べないし、親をかばってしまうし、ただ愛してほしいと願うだけで、考えなしの善意だけでは何も救えないくらいは知っていました。

まず、各所での心の傷の表現が、美しいと言ってはいけませんよね、汲み取りやすかったと言いましょうか…。

『海にインクを垂らせば薄まって見えなくなってしまうように、心の中にある水が広く豊かに、海のようになれば、滲みついた孤独は薄まって匂わなくなる。そんな人はとても幸せだと思う。だけど、いつまでも鼻腔をくすぐる匂いに倦みながら、濁った水を抱えて生きている人もいる。私のように。』

綺麗事ではない愛が誰かを救えて、この世のどこかで誰にも聴こえないと諦めていた声を聞いてくれる人がきっといるという希望を持たせてくれた物語でした。

人と交わることで得られる喜びや、悲しみ、できなかった事への後悔も生まれるかもしれないけれど、それらを抱えて生きていくことの勇気を与えられたんです。

それで私は、ウィルソン元大統領の「空腹では隣人を愛せない」を思い出しました。
だからまず自分を満たして、誰かの声を聞きたいし、ましてや誰かを知らぬまに言葉で傷つけたりしたくないと感じました。

現代要素盛りだくさんで、共感できないお話かもしれないけれど、「助けて」と言うことの難しさ痛いほど伝わりました。

52ヘルツのクジラをあてはめたところ、素晴らしい。きっと町田さんの他の作品も読みたくなりますよ。


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