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暴虎の牙(柚月裕子/角川書店/山本周五郎賞ノミネート候補作品)

<著者について>

柚月裕子さん

岩手県釜石市の出身。山形市にて池上冬樹氏が世話人を務める「小説家になろう講座」に参加。小説の執筆を開始する。地元・山形新聞社主催の山新文学賞「待ち人」が入選。2008年『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。他の作品に『最後の証人』、『検事の死命』『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』がある。

<山本周五郎賞とは?>

大衆文学・時代小説の分野で小説・文芸書に贈られる。エンターテインメント性が高く、日本の大衆文学賞として「直木賞」の対抗馬的な立ち位置だといわれることが多いが、大御所やベテラン作家が受賞する直木賞に比べて、山本周五郎賞は中堅作家が受賞する傾向が強い。ちなみに、山本周五郎は、直木三十五賞において授賞決定後に辞退をした史上唯一の人物です。


<あらすじ>

広島のマル暴刑事・大上章吾の前に現れた、最凶の敵。愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦の暴走を、大上とその愛弟子である日岡は止められるのか? 著者の人気を決定づけた警察小説『孤狼の血』シリーズ、ついに完結!

<感想>

柚月裕子さんの『暴虎の牙』シリーズ3作目、完結編です。
シリーズ物として、『暴虎の牙』から読まれることをお勧めしますが(登場人物の深みが出ます!)、この作品だけでも十分楽しめます。

昭和から平成へと移る昭和57年からの広島を舞台に、 警察と暴力団との凄絶な闘いを描く熱き男たちが描かれています。

父親の姿をみてきて、『極道がなんぼのもんじゃ』と沖虎彦は最凶の愚連隊「呉寅会」を率いります。
広島弁がこれまた怖さ増して。博徒たちの間では、まだ戦後の闇が感じられます。

ですから映画『仁義なき戦い』や、以前、是枝監督がお勧めしていらした羽仁進監督の1961年『不良少年』が思い出されました。けれど、こちらは、映像ではなく文字なのに、目を背けたくなるような鬼気迫る迫力でこちらに向かってきます。


沖は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力とそのカリスマ性をもって、勢力を拡大していきます。 そんな中で、広島北署の暴力団係の刑事大上章吾と出会います。またこの大上にも物語があって・・・。

男性の登場人物各々の強さも弱さも、それをひたむきに愛する女性達も描かれています。この女性達の愛し方は、女性である柚木さんならではの表現と感じました。

どの男性も、女性に心配されても仕事の事は言わずに冗談でかわし、肩を引き寄せる、女性はそれを疑いもなく信じる、今の時代にはなかなか難しいであろう(?)ハードボイルドな恋にドキドキ。

また、沖と大上が出会った時の帽子や、沖達が事を成功させたときのラーメン。ちょっとしたシーンに描かれる効果的な小道具が目に焼き付いて離れません。

広島を舞台に昭和と、平成をまたいだストーリーは、大上から日岡へ、また暴対法の施行によってシノギもままならない世の中へと進んでいきます。懲役刑を終えた沖と、大上に薫陶を受けた日岡刑事。ふたりはどんな関係を築いていくのでしょう・・・

この長編、息をもつかせぬ展開で一気に読みました。
映像になる前に是非、文字からご自分の沖や大上を目に浮かべてお楽しみください。


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