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夜が明ける(西加奈子/新潮社/本屋大賞ノミネート受賞作品)

<著者について>

西加奈子さん

‎イランのテヘラン生れ。エジプトのカイロ、大阪で育つ。2004(平成16)年に『あおい』でデビュー。翌年、1 匹の犬と5人の家族の暮らしを描いた『さくら』を発表、ベストセラーに。2007年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。その他の小説に『窓の魚』『きいろいゾウ』『うつくしい人』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『地下の鳩』『ふる』など多数。

<本屋大賞とは?>

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2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。

<あらすじ>

15歳の時、高校で「俺」は身長191センチのアキと出会った。 普通の家庭で育った「俺」と、母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できることなんて何一つないのに、互いにかけがえのない存在になっていった。

大学卒業後、「俺」はテレビ制作会社に就職し、アキは劇団に所属する。しかし、焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、少しずつ、俺たちの心と身体は壊れていった……。

思春期から33歳になるまでの二人の友情と成長を描きながら、 人間の哀しさや弱さ、そして生きていくことの奇跡を描く、感動作!

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<感想>→少しネタバレです。

現代社会の格差貧困、虐待、自傷、過労の物語は沢山あるけれど、ここまで圧倒的迫力で読者に突きつけてくる作品は初めてでした。震えが止まりません。不幸な環境に生まれ、姿に性格に特徴のある暁に『お前はアキ・マケライネンだよ!』同級生の「俺」が掛けた言葉から始まる二人の、高校から33歳までの物語です。

フィンランドの無名の俳優アキ:マケライネン。
「彼そのもの」だと言われ、暁は生きる道を見出だします。
暁を導いた「俺」にも突然降りかかる貧困、虐待。成人して働き始めてもTV制作現場の過重労働、不条理に苦しみます。合間に挟まれる平仮名だけの日記には締め付けられますし、暁と俺、2人の視線で語られるテンポのよさに、長編ですが手が止まることはないでしょう。

西さんですから、単純には終わらないの分かっていても、「次の章では救われるといいな?」なんて期待しながら読んでしまいました。進むにつれ、でもその期待する軽い気持ちは、現実の世界でも私がしている事と同じと感じ始めました。『自己責任』『自分とは別世界』とどこかで思う気持ちに気づき始めました。西さんの作品によく描かれる『生きる汚さ』
本作もいつもと同様に、それこそが美しさ、人間だと迫ってきます。

仏哲学者ミシェル フーコーの言葉が思い出されました。『絵画や建物が芸術作品と言われるのに、何故私達の人生が芸術にならないのでしょうか』
私達は『作品』の反対側『製品』であってはならないんですよね。正常と異常に二分する世間の見方を打ち破らなくては。他人を自分と違いのあるからこそ価値のある『作品』として見る。それがなくては多様化社会にも向かえない。まずは、自分の劣った部分も抱きしめる事から始めなくてはならないことも感じました。

また、暁が俳優マケライネン自身になりきろうとする姿に、リサ・クライン・ランサム著『希望の図書館』を思い出しました。差別と貧困の中主人公少年は、同じ名前の詩人と出会い、心を静かに変えていきます。こちらは希望のひかりを見せてくれますが‥「助けて」と誰かに声に出せる社会に「夜が明ける」まではまだまだ果てしなくて‥『自己責任』とっても怖い言葉です。



文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです