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少年と犬(馳星周/文藝春秋/直木賞ノミネート候補作品→受賞)

<著者について>

馳星周さん

1965年、北海道生れ。 ペンネームの馳星周は本人がファンである映画監督・俳優の周星馳の名前を逆にしたもの。1996年、日本ミステリ界に衝撃を与えた『不夜城』でデビュー。金城武さんが主演で映画化もされましたね。

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吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞する。 1998年、『鎮魂歌―不夜城II―』で日本推理作家協会賞を受賞。そしてこのたび直木賞を受賞されました。

<直木賞とは?>

正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。

直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。

週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。


<あらすじ>

傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だった――。

2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……

犬を愛するすべての人に捧げる感涙作!


<感想>

※少しネタバレです

世間でよい人と言えない人を、人間として描いて下さる、馳さんの代表作です。直木賞選考会一回目の投票から一位で、ダントツだったようですね。7回目の候補、やっとですね。犬を愛する人は勿論、そうでない人もこの犬に惹かれ、犬と一緒にくらしたくなるのでは?

『人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない。(老人と犬)より』

傷つき、悩み、惑い、犯罪者となる人、そんな人々に寄り添うのは一匹の犬。犬と、それぞれ短い間共に暮らす人ごと5章に別れていて、6章目で、その犬は少年にたどり着くという連作短編集です。まず第1章、 2011年仙台から始まります。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしています。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾います。多聞という名らしきその犬の賢さ、眼差しに和正はすぐに魅了されます。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けます。 そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」となりますが 、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていました。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……。

2人目は、窃盗団の外国人ミゲル。彼と共に新潟へ。結果はともかく、多聞は和正同様彼にも温かさを与えます。

3人目は、いつの間にか、心が通じ会わなくなってしまった夫婦の元へ現れる多聞。多聞は彼らをどう救ってくれるのかはお楽しみですね。

4人目は、体を売ることになってしまった女性の元に現れた多聞。もう少し早く多聞が彼女の前に現れていたのならば…と思わずにはいられません。

5人目は、病が進んで一人で死を迎えようとしている老人の元へ。多聞のお陰で、彼も心を開くことができます。
もうこの辺りまでくると、多聞が本当にいるような、人間の悲しみを嗅ぎ付けて現れてくれる、まるで神の犬のように感じられます。

最後の6章。
元々は釜石で飼われていた、多聞。東日本大震災で飼い主を失い、多聞はある決意を秘めたかのように西へ西へと向かっていたのです。
最後に多聞がたどりついたのは、九州・熊本。そこでは?

星周さんは、犬のため移住するほど自他ともに認める愛犬家だそう。
ある翻訳ミステリーを読んでいたところ、どうしても作中の犬の行動原理が作者の都合のいい解釈にしか思えなくて……だったら自分の納得がいくものを書いてみようと思われたそうです。

また、まだあの地震、津波、そして原発の事故から、十年も経っていないにもかかわらず、被災地以外は災害のことを忘れてしまっている。でも、あの東日本大震災というのは日本人の愚かさがもっとも典型的に現れた災害だと思うし、そのために多くの命が奪われてしまった。今は新型コロナのこともあるし、一層このことを考える機会が失われてしまっているけれども、作家として、自分は東日本大震災のことを折に触れて、書いていくんだろうと仰っています。

すぐに繋がれる今の時代なのに、温もりは感じられにくいこの時期特に、こんな物語を読ませてくれてありがとうございますという気持ちです。
皆さまも是非ご一読を。


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