見出し画像

ノースライト(横山秀夫/新潮社/本屋大賞ノミネート候補作品)

<著者について>

横山秀夫さん

1957年東京生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、1998年「陰の季節」で松本清張賞を受賞し、作家デビュー。2000年「動機」で日本推理作家協会賞受賞。以降、『半落ち』、『第三の時効』、『クライマーズ・ハイ』、『看守眼』など話題作を連打する。2012年刊行の『64』は各種ベストテンを席巻し、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー最終候補やドイツ・ミステリー大賞海外部門第1位にも選ばれた。


<本屋大賞とは?>

画像1

2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。


<あらすじ>

一級建築士の青瀬は、信濃追分に向かっていた。たっての希望で設計した新築の家。しかし、越してきたはずの家族の姿はなく、ただ一脚の古い椅子だけが浅間山を望むように残されていた。一家はどこへ消えたのか? 伝説の建築家タウトと椅子の関係は? 事務所の命運を懸けたコンペの成り行きは? 待望の新作長編ミステリー。


<感想>

誘拐事件捜査をめぐる警察小説『64』は海外にも多数翻訳されて、英国推理作家協会賞を受賞しています。それから6年。
横山ミステリー史上最も美しい謎、熱く心揺さぶる結末と紹介されています。

一級建築士の青瀬が主人公のノンフィクションです。

子供時代は、父親の仕事の為、あちこち転々し、簡素な家で過ごしました。そのせいか東京で建築士となります。

ハブル期の成功と共に、結婚生活では子供も得られるのに、慌ただしさからか、妻の求める木の家にも気付くことできず、全てを失います。見失い、負け組に陥り、ようやくのことで鬼怒川に建てたY邸によって自信を持てたであったはずなのに…依頼人の住人が消えてしまう。Y邸には『タウトの椅子』だけが残されています。

この流れがあるから、単に住人が消えてしまっただけではなく、謎に引き込まれる青瀬に不自然さはは感じられませんでした。

美しい謎とは、きっと伝説の建築家の『タウトの椅子』のことでしょう。

無駄のない描写ですから、私には、青瀬が小さい頃印象的だった窓の光や、ダム建設で失われる前の森林の豊かな景色や、別れて暮らす娘の横顔にも美しさを、また登場する人達全員の心が謎と感じました。

タウトとは、中学時代の青瀬も影響を受けていた伝説の建築家タウト。彼はユダヤ人でナチスから逃れてきた日本で、日本の価値を日本人に改めて知らしめた人です。祖国に家庭がありながらエリカと共に祖国を離れ日本で暮らしていました。

警察も探偵も、殺人事件も起こらないのに、大いなる謎をひめています。

謎を追う楽しみ、青瀬のルポルタージュとして読めば人生の旅を共にできたり、またタウト探求も織り込まれているので、芸術家小説としても、とにかく読みごたえのある作品です。

現代の生活はデザインが溢れていて、いつかの広告みたいに『世の中は誰かのデザインできている』んですよね。これを書きながら『早く建築、デザインを観に行きたい!』と、この一冊で見る眼を刺激されています。

そんな元気な気持ちにさせたのは、最後には光が差し込むように道標を示してくれているからでしょう。

建築家タウトを含めたいくつかの家族の有り様を重ね合わせから見えてくる機微にも心揺さぶられます。
「家は、すなわち家族」なのか、「やはり人を幸せにしたり不幸にしたりするのは人」なのか。

主人公の人生を読み終え、流れる川から知らぬ間に淀みに迷い混み、ふとした出会いやきっかけで、再び流れに戻っていく…仙涯和尚の『よしあしの中を流れて清水かな』が思い出されました。

主人公の根底にあったのは、子供の頃どの家にもあった「北側の窓からさす光」でした。みなさんの心に残っいて、大人になってどこかで探している景色は何ですか?



この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです