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Series "Rembrandt" -Op.7-: It's show time !

ー帰路ー
夜も深まって,そろそろ百鬼夜行のそんな時間。
百鬼の代わりに人が夜行の都心と違って,あたりはすっかり眠りについておりました。
肌に触れる風はわずかにヒヤリと心地よく,夜の静けさもまた心地よく。
角を曲がると,我が家がみえます。
今時,ガラス格子の引き戸と古風な我が家の玄関。
ガラスから漏れる灯りが,待つ人の有難さを語ります。

ー出会いー
ガラス格子に手をかけた時,
小さな気配と声がきこえました。
「やぁ,人間が昼間っから出歩いてるなんて,珍しいじゃないか!」
あたりを見回しても何もなし。
これは,見えないものなのかしら?と肌寒さを感じてしまい・・・。
「こらこら,こっちだよ。そんなにでかい目をしているのに,見えないのかい?」
目線の少し下,格子の間のガラスで小さな何かが動きました。
よくよく見てみたならば,
背側に立つ街灯の灯りに照らされて,
1匹のアマガエルがおりました。

ー招待ー
「・・・こんばんは」
驚きながらも挨拶は大事です。
「こんばんはじゃないよ。まだこんにちはの時間だ。
そんなことよりどうだい?これからオイラの舞台の時間なんだ。
カラスは眠いって来ないし,ハクビシンのやつも今日は来れないって言うんだよ。どうやら猫の旦那も今日はオイラを追っかけてる場合じゃないみたいだし,なぁ,ちょうどいいだろ?みていきな!」
入った入ったと急かされるから,引き戸で彼を挟まないように気を付けながら,戸の中に入る。
・・・我が家に。
「さぁ,間もなく開演だ!無粋な灯りは消しておくれ!」
仕方ない,玄関の灯りを消そう。

ー開演ー
「Ladies and Gentlemen !
        It's beginning the show tonight !」
「今日の演目は世紀の大大大アクション!
この,磨かれた絶壁を,命綱もなしに登りきる!
伝説のクライム・アクション!
悪いことはしてないからね,Climeじゃないよ,Climbだよ!」
「挑戦するのはオイラ!向かうところ壁なし!Mr. Frog!」

FUJIFILM X-100F model: Ama "Frog" Gaeru

すりガラスの向こう側に,
街路灯の真っ白な光に照らされて,
その姿はまさしく ”ショーマン” 。

ーClimb! Climb! Climb!ー
ゆっくりと,
一歩ずつ,
手を広げ,
足を広げ,
登ってゆきます。
落ちることは許されない緊張の中で,彼は登っていきます。

FUJIFILM X-100F
FUJIFILM X-100F

ついに彼の最後の一歩が,
すりガラスのてっぺんに届きます。

FUJIFILM X-100F

ー終幕ー
”絶壁” を登りきったMr .Frogは何も言わずに去っていきました。
疲れ切ったのか,はたまた,言葉はいらないと思ったのか。
ただ,決して下ることはなく,去っていくのでした。
心の中で喝采を送りながら,もう一度見たいと,彼を追いかけました。
次はまたあるのかい?と聞きたくて。

しかしもう,ガラスの向こう側には,誰もおりませんでした。
ただただ春の夜が,あるだけでした。
風はわずかにヒヤリと心地よく,
「あばよ」とかすかに聞こえたような,聞こえないような。
静かな夜の,物語。


ーあとがきー
特にカエルに詳しいわけではございませんが,
縁起ものなので好きだったりします。
悪いことがひっくり”カエル”
なくしたものが”カエル”
などなど,いいことがありそうな気がします。
街中で,カエルに出くわすことはあまりないかもしれませんが,この記事で出会えたあなたには,いいことがあるかもしれません!
なんて希望も込めまして。
showはあってもしょーもない物語でございました。

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