【オリジナル短編小説】魔女
魔女、というと、あなたは何を思い浮かべますか?
多くは伝承やおとぎ話、中世の魔女裁判を思い浮かべることでしょう。
そんな古くから描かれてきた魔女の像。一体何をもってして魔女と言われるのか。私はそれをずっと前から考えていました。
何故、ですか…。
私は、魔女になりたかったんです。
妄想じゃあありませんよ。
現実的に達成可能な魔女のことです。
不思議そうな顔をしていますね。
では、分かりやすく手順を説明しましょうか。
まずは魔女の象徴について考えていきましょう。
魔女の象徴といえば、知識、畏怖、全知、排除される者、憎悪…というところでしょうか。
その中でもっとも重要なものってなんだか分かりますか?
…答えは、畏怖です。
ねぇ、笠井さん。あなたにとって一番怖いものってなんですか?
あぁ、つい名前を呼んでしまいました。
なんで分かるのかって?
…それは、魔女ですから。
さて、どうしてでしょうね?
それで、まずは笠井さんの一番怖いものを教えてください。
正体のわからないもの、ですか。
あなた、なかなか鋭いですね。
そう、魔女は、正体のわからないものです。
おとぎ話や伝承の中で、魔女はその正体を語られることはあまりありません。
お話の主人公や旅人の前に現れて、素性も明かさず消えていく。それが魔女です。
さて、そんな魔女になるにはどうしたらいいと思います?
…ねぇ、笠井さん。
これからあなたにいくつか質問をしますね。なんでも思い付くままに答えていただいて結構です。
では、最初の質問。
あなたは男性ですか?女性ですか?
…はい。
では次の質問。男性、女性とはなんですか?
あぁ、どんな説明でも構いませんよ。
…わかりました。
次です。あなたはその性別として生きてきて、何を知り得ましたか?
…なるほど。
次。それはあなたの中の真実といえますか?
…素晴らしいです。
次。何をもって、真実と言えますか?
…うーん、そうですか。
次。あなたはこれまでの人生で、五感を疑ったことは一度もないのですか?
……。
……。
次です。もう少し頑張ってくださいね。
あなたの見ている世界は、本物だと言えますか?
…大丈夫、落ち着いて。
これが最後の質問です。
あなたは、何者ですか?
また、それを真実とする根拠を述べてください。
…はい。
質問はおわりです。
ようこそ。あなたを歓迎します。
ーー以上が、行方不明となった笠井朱美さんと、容疑者らしき女性との会話録音データである。
笠井さん失踪の5日後、笠井さんの自宅から遠く離れた郊外の公園で、本人のものと思われるバッグを発見した。そのバッグの中から見つかったデータである。
笠井さんの他にもこの女性との会話データを残して失踪した者が多数おり、警察は連続失踪事件として、情報の提供を求めている。
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