【オリジナル短編小説】苦痛の核

休日の朝。

寝起きのぼうっとする眼で、壁に掛かった制服をなんとなしに見つめていた。

もう何百回と袖を通してきた、職場の制服。

これを見て、暗く淀む海に放り出される感覚になった人は、どれほどいるのだろう?


「制服って好き?嫌い?」

これは、友人に以前投げ掛けた質問。

若干への字に曲げた口で考えると、こんな返答が返ってきた。

「うーん…。まぁ、好きな人もそんなにいないんじゃない?制服で喜ぶのは高校生くらいのものでさ。」

少々意外な答えだった。

一先ずこの返答の一番の疑問を投げ掛けてみる。

「それは、どうして?」

友人はまた考える姿勢で言葉をゆっくり繋げた。

「いや、だって…制服ってやっぱカタいイメージがあるし、社会人にとっては仕事の象徴なんだから、大半の人は好まないんじゃない?」

なるほど。そこまで聞いて、満足した。

いや…。満足はしてないが、自分の求める解は得られなかったのだ。疑問の入り口にすら到達しそうになかったので、話を切り上げて友人にコーヒーを奢った。


仕方がないのだ。

そもそも人種が違うようなものなのだから。

だから、友人には期待もなければ悲しみもない。

そうやって、割りきってきた。


だけど。


やはり、限界というのは来るものらしい。


長らく、制服や髪型、振る舞いに至るまで、そういう「分類」だと扱われてきた。

無論、それが「分かりやすい区別」であることは理解しているし、安全面なども考慮されている場合の分け方だってある。


しかし、制服と、儀礼のみを押し付ける文化には、到底耐えられなかった。

理由なき常識というものが、幼子の頃に眠らせておいた欲求と違和感を呼び覚ましてしまった。


だから。


今日、退職願いを出した。

もう、この感覚が再び眠ることはないと確信したから。


「僕」はもう、反対の顔を持つことは出来ないのだから。

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