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【日記】そばは必ず水と塩と麺つゆで

先週末は、西会津から飯豊連峰を二泊三日で周回してきた。
15時前に下山し、米沢に向かう途中、小腹が空いたなぁと思ったら、宮古そば街道なるのぼり旗。
クネクネと山道を走ると、そば屋が連なるエリアに辿り着き、そのうちの一軒「とのや」に入った。

民家そのままの、とのや

中に入ると、中途半端な時間のためか客は誰もおらず、玄関からご家族の食卓を見ながら奥に通される。

民家そのまま
仏壇もそのまま。右奥がご家族の食卓と台所

すぐにご主人が「初めてですか?」と説明に来てくれる。70代かな、白髪のちょっと頑固そうな感じ。
説明を受けて、ここのそばの楽しみ方が、一番手軽に楽しめるDセットに。
待っている間に、女将さんらしき女性が「暑いですねぇ」と扇風機をつけに来てくれた。
60代半ばくらいか、素朴な感じだけど、どこか品があって、若い頃は相当な美人だったと思う。
「どちらからですか?」
という問いから会話が進み、ボクが飯豊山に登ってきたと話すと、なんとこの女将さんも登ったことがあるという。
飯豊山は東北で登山を始めると、朝日連峰とこの飯豊連峰がひとつの目標となるが、ここでは町民登山として、飯豊山に登るという。
さすが信仰の山。
ちなみに、この飯豊連峰は山形県と新潟県にまたがる山域だけど、この辺りからの登山道から山頂までの登山道は細長く福島県。
これは信仰のため。詳しくはネットで検索すると出てきます。
誰かが「回覧板です」と言って尋ねてきて、そのままご家族の食卓に混ざる。
なんというか、つげ義春の旅行記の世界。分かるかな?生活と商売が切り離されていない、昔の田舎の感じ。
なんだか、旅情があってボクは好きだ。

やがてそばが小鉢を添えて運ばれてきた。

小鉢と水そば

こんにゃくやキノコ、浅漬けなど。
そしてそばは少量の水に浸かっている。
ご主人が説明をする。
「まず、最初は必ず水で食べてください。良いですか、必ず水で食べてください。それから汁をつけても良いです」
それじゃ、この後、ざるそばを持ってきますと言って、去っていくご主人。
結構、強い口調だった。それほどまでにこだわりがあるのか。
なんとなく気圧されながら「水そば」を食べる。
なるほど、これは美味い。驚き。
ボクはそばが好きで、そば屋に入ると、とりあえずそばをそのまま食べてみたりするが、ボソボソとして、やはり麺つゆをつけた方が美味い。
ところが、水に浸かっていると、するすると入っていく。そしてその方がそばの味を感じられる。なるほど、この食べ方は良い。
水そばのまま、全部食べてしまった。
そして小鉢も全部美味い。食べ終わった頃にざるそばが運ばれてきた。

塩で食べる


そしてまたご主人が説明する。
「良いですか、まずは必ず塩で食べてください」
そう言うと、有無も言わさず、そばの上に塩を乗せると、ボクの持っていた箸を奪い、塩をそばに馴染ませる。
「こうやって必ず塩を叩いてください。塩は新潟県の〇〇(忘れた)という塩です。見えなくなったら食べます」
そう言うとご主人はそばを掬い上げ、そのままボクの方に差し出した。
ボクはまたしても気圧されながらその箸を受け取り口に運ぶ。
美味い。
塩のおかげでそばの甘みを感じる。そばに甘みがあるとは驚きだ。
それから半分を塩で食べて、残り半分は麺つゆで食べた。
その頃、女将さんがそば湯を運んできて、またしばし飯豊山やその周辺の山の話に。
そこに飯豊山に対する誇りや愛情を感じる。
こういう地元愛は良い。羨ましい。
女将さんが去ってから、そば湯をいただく。
そばが田舎そばほどの重さがなかったので、どれくらいかと思ったら、しっかりトロみがある極上のそば湯だった。
2杯飲みほして麺つゆがなくなり、3杯目は醤油を少し入れて飲んだほど。

食べ終わって、少しゆっくりしてから腰を上げる。レジなどはなく、玄関で女将さんに代金を渡す。
「そば湯まで全部美味しかったです」
そう言うと、お女将さんは喜んで、飴を3つくれた。
それから、この近くに日帰り入浴施設はありませんかと質問すると、女将さんが食事をしているご主人の方を振り返って「高郷だよね?」と確認する。
すると、ご主人の道案内が始まった。
「良いですか、この道をずっと行くとT字路がありますね?」
いや、知らないけど…。
「そこを必ず右に曲がってください。左に曲がると辿り着きません」
相変わらずの圧。
「次は別れ道を、必ず左に曲がってください。そうすると蒸気機関車が走る線路がありますね?」
蒸気機関車が走ってるかどうか知らないけど…。
「そこを行くと信号がありますから、必ず右に、その後は必ず左に…」
2回曲がったところで、ボクの頭の中は迷子になっていた。
その様子に女将さんが心配そうな顔で、携帯をいじるようなゼスチャーを見せながら、
「ねぇ、ナビねぇ、調べますもんね」
と助け船。
ボクは、はい、調べますのでと言って、ふれあいランド高郷の名前を聞いた。

そんな訳で、美味しいそば屋でした。
ご主人と女将さんのキャラがまた良い。
機会があれば、ぜひ喜多方市宮古の「とのや」へ。
必ず満足できることでしょう。

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