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【エッセイ】いつの間にか座右の銘になった言葉

もう数年前に亡くなってしまったが、狩撫麻礼という漫画の原作者がいた。
彼について語られることはあまり多くないが、ボクらの世代で彼が原作の漫画に影響を受けた人は多いと思う。
ボクも追いかけるようにして読んだ。
たなか亜希夫作画の「迷走王ボーダー」、谷口ジロー作画の「Live!オデッセイ」、そして、かわぐちかいじ作画の「ハード&ルーズ」。

ハード&ルーズは、私立探偵の土岐正造が主人公の、いわゆるハードボイルド系の漫画だが、それだけでは括れない。
不器用に生きる人たちの視点から、社会の「当たり前」をえぐるような話が多い。
高校生の時にこの漫画原作者に出会ってしまったのが、今の価値観にも影響している。

この漫画の第二話に「愛の使者」という話がある。
32歳のルックスは良くない女性が、電車の中で見かけるルックスの良い男に惚れて、土岐に調査とキューピッド役を依頼する。
しかしその男を調べてみると軽薄で女癖は最悪。話をすると、その女は美人かと聞かれ、どちらかと言えばその逆だと答える土岐。
すると男は、
「このごろ時々思うんだよな、金持ちの女見つけたら結婚しても良いって」
と言い、それを聞いた土岐は、
「男にゃ死んでも口に出しちゃいけないセリフが二つ三つあるもんだ、このカスめ!」
と激怒する。

しかし女に報告して忘れるように言うが、女はもとよりそのつもりで、金ならあると1ダースの貯金通帳を見せる。
そしてふたりは結婚する。
結婚式に出席した後、バーで1人飲みながら土岐は思う。

時の経過とともに、なぜかあの夫婦はうまくやっていけるような気がした。
異なる価値…金とルックスをエゲつないほど過激に求め合い結ばれたふたり…
まともな結婚も所詮は男と女の勘違いで成立しているのではないだろうか…
だとしたら誰があのふたりを笑えるというのか

そして最後にこう締めくくる。

"全ての人間は自らふさわしいものを得る"

バックにボブ・マーリーの絵が描かれているということは、彼の曲の歌詞なのかもしれない
(ちなみに狩撫麻礼というペンネームは明らかにボブ・マーリーからきている)。
ボクはこの言葉をいまでも時々思い出す。
上手くいかないことがあった時、この言葉を思い出して考えてみる。
すると、自ずとふさわしくなかった自分に気がつくのだ。

金が欲しいなら、その金を持つにふさわしい自分になれば良い。
賞賛が欲しいなら、その賞賛にふさわしい自分になれば良い。
そして、愛が欲しいなら、その愛にふさわしい自分なれば良い。

だけどなかなかそうなれないのが人間なんだろうね。

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