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【ショートショート】コンビニ店員

近所のコンビニの自動ドアを開けて店内に入る。
「おう、いらっしゃい」
まるで昔の酒屋のオヤジのような親しげな挨拶。
雑誌の棚を眺めてから、飲み物の冷蔵庫のドアを開け、ビールを二本取り出す。
ぶら下がったつまみの中から、バタピーとサラミを手に取りレジに向かう。
店員は素早くバーコードを読み「584円ねー」と言ってから親しげに話し始める。
「なんだよ、またひとりで家飲みか?たまにはデートにでも行ったらどうだよ」
「いや、彼女もいないしさ」
「今度の会社には気になる女の子はいないの?」
「まぁ、そりゃいるけどさ」
「じゃぁ、ほら、アタックしなきゃ」
ちょっと最近、プライベートに口を挟みすぎだなと思い始めている。
親しい感じの接客は好きだけど、転職したことまで知られてるとなると、なんだか怖い感じもする。
「あのさ」
ボクはスマホを差し出して支払いを済ませながら言った。
「そこまで馴れ馴れしくして欲しくはないんだよね」
「あ、そう?じゃ、どういう感じが良い?」
「そうだなぁ、プライベートには踏み込まないで欲しいかな」
「オッケー、オッケー。じゃ、話し方は?フランクなまま?敬語が良い?」
「その中間ってできる?」
「もちろん」
「じゃ、それで」
「わかりましたー。じゃ、これからはこんな感じでいきますね」
「あ、あと、ついでと言っちゃなんだけど、女性にはなれる?」
「できますよ」
さっきまでのちょっとしゃがれたオヤジ声から、艶のある女性の声に変わった。
「それじゃ、また来てくださいね」
完璧だ。

この10年でAIとロボットの技術は飛躍的な進歩を遂げ、ついに完璧なコンビニ店員ロボットが誕生した。
入り口のカメラで個人を判別し、その人が好む接客を行う、オーダーメイド接客システム。
さらに国民管理システムと連動することで、生い立ちから最近の出来事までの個人情報を把握しているから、その人に合った雑談もできてしまう。
本当に人間より人間らしい。
人間が接客していた時とは比べものにならないくらいストレスが減った。
日本全国のコンビニのほぼ全てに導入されたのも納得だ。
しかし最近、人間の店員がいるコンビニが人気を集めているという。

無愛想でろくに返事もできないのが人間らしくて良い!

らしい。

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