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【ショートショート】カタカナ語

いつからこんなにカタカナ語が増えたのだろうか。
数年前からのコロナ渦でさらに増えた。
ステイホーム、オーバーシュート、クラスター、ロックダウンなどなど。
それ以前から、ビジネス用語はカタカナ語で溢れている。
アポやクライアント、インセンティブなどは既に馴染みがあるから良いが、エビデンス、デフォルト、ローンチなどはいつから使われているんだ?
マストなんて「必須」で良くないか?
初めて「リスケでお願いします」って言われたときは、なんの意味かわからないけど、聞き直すのが恥ずかしくてネットで検索した。
我が社の営業部もこうしたカタカナ語が飛び交っている。
毎朝のミーティングでも、時々何を言っているんだか分からなくなる。
本当にみんな分かっているのだろうか?

「田中グループの今日のアジェンダは?」
朝のリーダーミーティング。Aグループのリーダー田中に課長が質問する。
「はい、本日は鈴木にアサインしたプロジェクトをクロージングに持ち込みたいので、高橋にアテンドさせます」
なんだって?みんな頷いてるけど分かってるのか?
「ん、しっかりやってくれ。次、佐藤グループは?」
私だ。なんて答えたら良いんだ?みんなみたいにカタカナ語が出てこない。
えーい、もうなんでも良いか。
「はい、私のグループは全員、本日はウェイティングです」
「ん、佐藤グループもしっかりやってくれ」
え?良いのか?ウェイティングって待つって意味だぞ?
ってことは、今日はただ待ってれば良いってことか?

「佐藤リーダー、本当ですか?今日はお客さんからの電話さえ待っていれば、どこでサボってても良いって」
「まぁ、そういうことになるな」
部下たちはみんな歓喜した。
この話が広まり、次の日から営業部の全グループが適当なカタカナ語を朝のミーティングで使うようになった。
そんなある日・・・。

「今日の佐藤グループのアジェンダは?」
「はい、本日は全員ヘディングです」
「そうか、よろしく頼む」
ヘディングでもオッケーかよ!
私は必死で笑いをこらえた。

翌日、出社すると課長に声をかけられた。
「昨日のヘディングはどうだった?」
は?ヘディングって、サッカーのヘディング?適当に言っただけなんだけど・・・
「やってないのか?ということは嘘をついたわけだな?」
嘘というか、なんというか、仕事でヘディングってサッカー選手じゃないんだから・・・
「そんなことでどうする!今日は私が見ているから、全員でヘディングしろ!」
そんなわけで、私たちのグループは、本社ビルの中庭でサッカーボールを使ってヘディングをしている。
「でもうちのグループはまだ良いですよ」
元サッカー部の坂本が見事なヘディングを繰り返しながら言う。
「向こう見てくださいよ」
吉田グループがなにやら激しく踊っているように見える。
何をしているのだろうか。
「向こうのグループはヘッドバンギングらしいです」

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