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【ショートショート】恐ろしい星

(1712文字)

宇宙人の隊長(隊長)「なんとか着陸できたな」
宇宙人の隊員(隊員)「そうですね。しかし予定とは違うところに着陸してしまいましたね」
隊長「この星の気流が読みきれなかったからな。とりあえず無事に着陸できて良かった」
隊員「ここは公園というところみたいですね」
隊長「ああ。周りは人間の家だらけだ。まずはこの星の人間を探そう。翻訳機はセットしたか?」
隊員「はい。でも夜ですからね。この星の人間たちも寝ているでしょう」
隊長「そうだな。どこかの家に入って起こして話をするのも良い」
隊員「あ、いました!」
隊長「よし、いくぞ」

隊員「おい、そこの人間」
サラリーマン「ん?」
隊員「お前だ」
サラリーマン「おれ?お、お、おれになんか用れすか?」
隊員「我々は、M68星雲のウンバラバ星から来た使者だ。この星の代表者に会いたい」
サラリーマン「だ、代表者ぁ?」
隊員「そうだ。この星の指揮権を持っている者がいるだろう?」
サラリーマン「し、指揮権?」
隊員「分からないか。責任者だ、この星の責任者のところに連れて行ってもらいたい」
サラリーマン「責任者ね、そんな人間いませんよ」
隊長「責任者がいない?」
サラリーマン「そう。う、うぇ」
隊長「どうした?」
サラリーマン「いや、ちょっと飲みすぎちゃってね。うぇ。そこのブランコに座って良い?」
隊長「構わんが」
サラリーマン「あ、そう。悪いね。よいしょと。ところであんたらは何者?」
隊長「先ほども申したが、我々はウンバラバ星から来た」
隊員「我々の星はもう命が尽きようとしている。そこで、我々の星と同じ大気を持つこの星に移住させてもらいたいと交渉に来たのだ。交渉次第では、征服も考えている」
隊長「待て、まだその話はするな」
隊員「申し訳ありません、隊長」
サラリーマン「ってことは、あんたたちは宇宙人ってわけ?」
隊長&隊員「その通りだ」
サラリーマン「宇宙人が地球を征服しに来たってこと?」
隊長「いや、できれば平和な話し合いを求めている」
サラリーマン「銀色の服着て、頭にツノなんか付けちゃって、よくできた宇宙人のコスプレだけど、ちょっと古いな」
隊員「コスプレ?」
サラリーマン「まぁ、良いよ。なんだか分からないけど、酔い覚ましに付き合ってやるよ」
隊長「では、改めて訊くが、責任者がいないとはどういうことだ?」
サラリーマン「この国にはね、誰も責任をとる奴なんていないのよ。この前の裏金問題、あんたらも知ってるでしょ?」
隊員「裏金問題?」
サラリーマン「なんだ、知らないの?ちゃんと新聞読んでる?」
隊長「新聞?」
サラリーマン「なんだよ、冗談だろ?新聞も知らないの?まぁ、いいや。政治家がパーティ券売って、一部を帳簿にも書かずにフトコロに入れてたってアレよ」
隊長「なんだかよく分からんが、それと責任者とどういう関係があるのだ?」
サラリーマン「だーかーらー、政府の人間がそういう悪いことして、誰も責任取らずに適当に処分して終わりなわけ。本当は上の方に悪い奴らがいるのよ。いるのに、誰も責任取らない。この国はね、昔から責任取る奴なんていないの」
隊長「彼の言っていることは分かるか?」
隊員「いや、さっぱり分かりません」
サラリーマン「んー、まぁ、いいや。はい、これ」
隊長「これは何だ?」
サラリーマン「今日の新聞。これ読んで世の中ってものを勉強しな。地球征服はそれからだよ、宇宙人さん。じゃぁな」

隊員「行ってしまいましたね」
隊長「とりあえずこの新聞とやらには重要な情報が書かれているらしい」
隊員「まずは敵を知れ、ですね」
隊長「フムフム、なになに、ロシア、戦争?テロ?報復?」
隊員「こちらは殺人や詐欺、犯罪に関することばかりです」
隊長「飢餓や難民も問題になっているようだ」
隊員「どうなっているんですか、この星は」
隊長「どうやら我々は恐ろしい星に来てしまったらしい」
隊員「こんな星の人間と戦って勝てますか?」
隊長「勝ったとしても、最後まで奴らは何をしてくるか分からんな」
隊員「早く母船に帰って報告しましょう」
隊長「そうだな、この新聞を見れば、総司令官もここがどんなに恐ろしい星だか分かるだろう」
隊員「ということは」
隊長「ああ、残念ながらこの星は諦めるしかない」







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