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【ショートショート】成人免許制度

(780文字)
「総理、この防犯カメラに映っている、タバコのポイ捨てをしている人物は総理じゃないんですか?」
「えー、ご指摘の件ですが、全く身に覚えがありません」
「総理!」

遅い朝を迎え、テレビの電源を入れると国会中継が放送されていた。
成人免許制度が施行されてから、国会で行われる議論は議論ではなく、こうした追求ばかりだ。

成人免許制度。

あまりにマナーの悪い大人が増え、国の将来を救うためにできた制度。
18歳で成人式と同時に行われる成人試験に合格すると、晴れて成人と認められる。
試験内容は、ゴミのポイ捨てをしてはならないというマナーから、納税の詳しい手続きについてまで、学校ではあまり教わらない一般常識。
この試験に合格すると成人証が発行され、晴れて喫煙、飲酒、公営ギャンブルなどが許可される。
しかし、タバコのポイ捨て、飲酒して迷惑をかける、あおり運転、セクハラなどの迷惑行為を行うと、犯罪にならなくても成人免許が取り上げられる。
もちろん、犯罪を行っても当然ながら取り上げられる。
取り上げられると、一年後の再試験まで未成年として過ごさなければならない。
喫煙や飲酒はもちろん、成人としてなら許可されることも犯罪となってしまう。
その中にはもちろん「選挙権・被選挙権」がある。
議員や大臣であっても、成人免許が取り上げられると被選挙権もなくなり、つまりは議員の資格を剥奪される。
だからこの制度が施行されてからというもの、国会のみならず、県議会、市議会などはどこも議員同士の告発の場となり、議論らしい議論は全く行われることがなくなった。
「その防犯カメラの荒れた映像で、果たして私だという証拠はあるのでしょうか?」
「総理!言い逃れですか?潔く認めてください!」
制度が施行されてから5年。国会中継はいつもこんな内容だ。

しかし不思議だ。
国会がこんなに機能していないのに、国民の生活には全く支障がない。

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