見出し画像

たまに出張シェフなんかもします

(こちらは2012年9月8日のブログ記事です)

 


染め屋のワタクシでございますが、たまに出張料理人のご依頼がありまして、独立当初は仕事も少なく、そのご依頼を
お受けしていたのですが、だんだん染め系の仕事が増えて来ると余裕が無くなり、お断り
するようになっていました。



が、最近は仕事をある程度任せられるぐらいに育ったスタッフがいるので(2012年時)少し料理系の仕事もお受けするように
なりました・・・

益々何屋か分からなくなる我が工房でございますが・・・



今回は、イタリア料理です。


私は、調理人としてのキャリア上、和食とイタリアンが得意です。

ただ、私のつくるイタリア料理は「現代イタリア料理」ではなく「私がリストランテにいた時代の料理+現在の自分の考え」の合わせ技のイタリア料理です。料理にも流行りがあるのです。



今回は伺ったお宅で、6名さまの料理を作りました。



伺ったお宅で、特に初めてのお宅のキッチンで料理するというのは
かなりのアウェー状態というのが実情でして、それは調理環境が
プロのものとは全く違うわけですし、お話を伺っていてもキッチンや食器が説明通り
ではなかったりするので現場で臨機応変に変えて行きます。



なので極力、家で仕込んで現場では仕上げるだけにします。

今回はスタッフの甲斐もアシスタントとして同行したので助かりました。

画像1



お出しした順番で・・・上の写真は



【天然ヒラメと、水だこのお刺身サルサベルデ添え】



向かって左側がヒラメ、右側が水ダコです。

ヒラメの切り身は薄く塩をあて、しばらく置いて軽く脱水し、旨味を出したもの。生の水ダコは皮と周りのグミグミした部分を
外し、塊のまま60度ぐらいのお湯に5〜10秒あて、氷水に取り、
引き締めてから水分を拭き取り、軽く塩を振っておきます。


水ダコの生は、そのままだとクニャクニャした触感で噛み切れず、噛んでいても味の無いものですが、この低めの熱湯処理をすると身が引き締まり、味と香りが
出て、まるで貝のような味と食感になります。

上記を薄切りにし、自家製のディルビネガー、EXバージンオリーブオイル、塩コショウをかけ、「サルサベルデ」という、パセリ、にんにく、マスタード、アンチョビ、ケッパー、オリーブオイル、塩コショウで
つくった強い味のソースでいただきます。


サルサベルデは茹でた肉などにも良く合います。



お皿のまんなかの緑色の細長いものはチャイブです。
ネギのような味わいなので、刺身に添えていただきます。


赤い粒は、赤コショウの粒です。

画像2

【パプリカ入りトマトソースのスパゲッティ】



 

パプリカを直火で真っ黒に焼き、キレイに洗ってから細切りにした
ものをニンニクとEXバージンオリーブオイル、アンチョビでさっと炒め
トマトソースで軽く煮たものがソースです。


最近の流行りだとスパゲッティとソースを和えるのですが、今回は、あえてソースをかけるスタイルでお出ししました。

パプリカを黒焼きにする処理をし、水気をしっかり拭き取ってからラップで密閉し、2〜3日冷蔵庫で保存し熟成すると、まるでフルーツのような味、香りに
なり、ピーマン嫌いな方も知らずに召し上がることが多いです。




画像3

【アクアパッツァ】

 

スズキ、ハマグリ、エビを、水、白ワイン、ニンニク、アンチョビ、ケッパーなどでさっくりと
煮た料理です。
出汁は使わず、水と白ワインで煮るのですが物足りなさは無く、さっぱりしていながら素材の
輪郭が立つ料理です。


赤黒い色のものは、ドライトマトで、ドライトマトからは良い出汁が出ます。




アクアパッツァは、魚をまるごと使ったり豪快な感じでお出しする事が多いですが、今回は食べやすいように魚介類を処理して調理しました。

画像4

【和牛のモモ肉のバルサミコソース】

 



脂が少なめの、細かいサシの入った和牛のモモをロゼの焼き加減にし、バルサミコとスーゴディカルネ
(仔牛の濃い出汁)を煮詰め、バターでつないだものを添えました。赤身肉の味わいと、甘酸っぱい濃いソースが良く合います。



添えてあるのは、エリンギをバージンオイルとニンニクでソテーしたものです。
これも、バルサミコソースと良く合います。



撮影用に、格好良く絵を描くようにソースをかけると実際に
食べるにはソースの量が足りない事が多いですが、これは食べて美味しい量のソースをかけましたので、写真の見かけはイマイチですね。

画像5

【真鯛のソテーのバルサミコソース】

 



こちらは、お肉がお好きでない方用に肉料理の代わりにつくった魚料理です。



鯛の切り身の皮の側に薄く薄力粉をあて、皮目をカリッとソテーします。
丸なすは塩コショウし、クタっとなるまでしっかりソテーし、油をキッチンペーパーなどで良く
吸い取ってからお皿に乗せます。



そこに、バルサミコソースです。
皮目のカリッとした食感と、白身魚の身のフワっとした食感に、甘酸っぱい強いソースのコントラスト
が嬉しい料理です。
ナスにもバルサミコソースは良く合います。

画像6




【イチジクのオーブン焼きにアイスクリーム添え】

 

最後・・・ドルチェです。

イチジクを丸のまま天板に並べ、1cm程度の水を入れ、170度ぐらいのオーブンで90分ほど、じっくりと蒸し焼きにします。この段階ではイチジクと水だけで、他には何も加えません。

途中でイチジクをひっくり返しつつ、水を足しながら焼きます。焼いている間にイチジクから美味しい汁が出て来ますので、これを上手くキャラメルっぽくしながら、かつ焦がさないように、水の調整をします。焼く時に出てくる果汁をかけながら焼きます。



そうすると、イチジク自体が持っている糖分でとても甘くなり、独特の香ばしい香りが出て来ます。
焼き始めてから最低でも一時間ぐらいしないと、この香りが出てきません。

イチジクがクタッとして充分に香りと味が出たら、焼いた時の「水+果汁」と、ポートワインと
ゴールデンシロップで軽く煮てから煮汁と一緒に冷まします。


イチジクの味と香りがしっかり出ているので、ポートワインの香りが表に出ず
イチジクを蒸し焼きした時の魅力的な香りがしっかり残ります。



イチジクを赤ワインでコンポートにするのは良くありますが、生のイチジクは香りが弱いため、赤ワイン
の味が表に出てしまい、イチジク独自の素晴らしい香りが無くなってしまいます。なので、
私はオーブンでしっかり蒸し焼きにしてイチジクの個性を充分に出してから軽く煮る、というやり方にしています。



今回はイチジクを冷たくしてさっぱり目のアイスクリームを合わせました。



アイスクリームと、熱いイチジクにしてもおいしいです。

皮を剥かずに焼くので、デザート用のスプーンとフォークでは切りにくい事があります。(食べるのに固すぎるという程ではない)なので、お出しする際に、皮に隠し包丁を入れておくと親切です。

料理は以上で、その他、こちらで用意した天然酵母のバケット、自家焙煎のコーヒー屋さんのコーヒーでした。



* * * * * * * * 

今回はお酒は先方におまかせしましたが、私は料理とお酒の取り合わせも考えるのも
好きです。





料理とお酒が良く合っていると、お酒があまりお好きで無い方、あるいは
その料理があまり得意で無い方も「これならおいしい」と召し上がることが
多いです。
そこで、嫌いだったものが好きになってしまう事もあります。



私は料理人としては現役ではありませんが、染物の時と同じく
(というか染めが料理と同じく?)「素材の眠っていた良さを引き出し、増幅させ、提供する」
事を強く意識し、料理します。



私は何をつくるのも、全く同じ姿勢です。

そして、こちらの説明なく「ああ、これは本来こういう味だったんですね」とご感想を
いただけると、とても嬉しく思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?