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小説「ムメイの花」 #16基準の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。



変わり映えのない毎日。
ロケットも定刻どおりに飛んでいった。

そのうちブラボー、チャーリー、デルタが来て
調子はどう?とたわいもない会話をする。

そして今日も花の答えは
見つからずに1日が終わるんだろう。

毎日同じことの繰り返しだから、
僕が過ごす1日はいつも先が見えていた。


そんな中、僕は何も変わらないのに
花だけが変わっていく。

花の成長が遅い。

せっかく花の答えが見つかると信じて
考え続けてきたにも関わらず、
満開であろう花の大きさは
日に日に小さくなっていく。

そのうち右手の花も
なくなってしまうのではないか……


チャーリーが家から出てくるのが見えた。
最近、チャーリーが握っている花も
2本に減っている。

花を持ち始めた当初は3本だったのに。


まあ、チャーリーが
2本になっているのだから
例え僕の花がなくなったとしても仕方があるまい。


チャーリーは視線を感じ取ったのか、
僕の元へやってきた。

「おはよう、チャーリー。
 花が2本になっているけど何かあったの?」

「アルファ、おはよう!
 花も生きているから
 必要以上に摘み取るのをやめたんだよ!
 花への配慮ってやつさ!」

なんだ、今日は。
僕が知っている、
数で勝負のチャーリーではない。


僕は自分の考えを整理するため
右手の花に視線を落とし、言葉をかけた。

「変わっているのは
 お前だけじゃないのか?」

何も言葉を返してこない花の代わりに
チャーリーははっきりと答えた。

ただ、ボクのここが動いたんだよ!
 花に聞くんじゃなくて、
 アルファもここに聞いてみなよ!

チャーリーは花を握り、
作った拳で自分の胸を叩いた。


何も言い返せず、数秒の沈黙が続いた。
その間にチャーリーの家の方から
男の人の声が聞こえた。

「こころから愛するチャーリー、
 ちょっと来てくれ」
「オッケー、パパ!
 じゃあね、アルファ。良い1日を!」

チャーリーは急いで家に戻っていった。


ここか……
僕はどのくらい、ここが動くんだろう。

チャーリーが見えなくなったのを確認して
花を握った右手で、試しに胸を叩いてみた。

感じたのは、叩いた振動だけだった。

僕がこれまで信じてきた、数字のような
目に見えるものだけが基準ではないのかもしれない。


僕はもう一度、自分の胸を叩いた。


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