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小説「ムメイの花」 #23零点の花

「バニラは知ってるの?」

僕をちらっと見て
手元の瓶に視線を戻した。
何もなかったかのように
作業を進めるバニラ。

「ねえ、知ってるんでしょ?
 僕は花を見るチカラが足りない、
 その……」

「よくわからないわねぇ」

「そのチカラって『好奇心』だね?!」


ブラボーとチャーリは
そうなのか!?という表情でバニラの顔を見た。
デルタもゆっくりカメラを下ろす。

「僕が予想した
 『全盛期を見据えるチカラ』じゃないのか!
 アルファはムメイイチ賢いオトコだなぁ!」

「ボクの『観察するチカラ』じゃないの?」

「私は『本当の姿を見抜く』ことって言ったけぇ」

ドクン、ドクン。

正解発表に緊張が走る。
まるで合否が決まるかのように。

バニラはついに動かしていた手を止めた。
そして大きく息を吐いた。




……そこから何も言わないバニラ。


「勿体ぶってないで正解を教えてよ!」
痺れを切らし、僕は言った。

「アタシが知るわけないじゃない」

「冗談はいいからはやく!」
「お花はディープな生命なのよ?」
「でも……それじゃ困るんだよ、早くしないと」

「そうだよ!
 花が咲かなくなり始めているんだ!」
チャーリーは僕の言葉に被せて言う。

「お花はアタシたちを
 困らせるようなことは絶対にしない。
 咲かないっていうのは
 アタシたちに原因があるはずよ。

 まあともあれ、
 答えは見つけられないと思うわ!」

バニラは再び作業を始め、手を動かす。
みんなは残念そうな表情をしていた。


「答えがないってこと?」
好奇心を感じて期待なんてするんじゃなかった。
僕もがっかりだ。

「例えアタシが教えたとしても
 アナタはそれを答えだと思わない。
 答えはアナタしか知らないからね

「どうして確かな答えを言ってくれないの?
 僕が見つけないといけないことだから?
 経験をしないといけないから?
 答えを探し続けろって?」

「アナタが思っていることは全部正解よ」

「うーん、もう!
 自分の中にしかないって
 本当に便利な言葉だよなぁ。
 数式のようにシンプルに言ってよ!」

「一筋縄じゃいかない方が
 オトコは燃えるでしょっ」

僕が誰かと言い合う姿を
みんなには初めて見せたかもしれない。
その反応なのか、チャーリーすら
会話に入ってこなくなった。
黙ってバニラとの会話を聞いている。



「じゃあ僕はどうしたら良いの?
 誰に聞いたらいいの?」

「誰かに聞こうなんて、
 アナタが答えてほしいことを
 アタシから聞き出せたら答えだと思えるわね」

「その答えがわからないから
 こうして聞いているんだ!
 どれも正解なら探さなくても
 良くなっちゃうじゃないか!」

バニラは香りを詰めたばかりの瓶を
自分の鼻へ近づけた。
目を閉じ、大きく息を吸う。


「ええそのとおり。
 そう思うのなら、
 お花の答えなんて探すのはやめておしまい!

 アナタの解答は全て満点。
 お花の答えを探す者として零点だけどね!

僕は好奇心から一変、混乱した。
頭の頂点まで熱くなったのを感じた。

右手の花を握るチカラが強くなる。
これは憤りの拳だ。

「こんなに一生懸命なのに、
 やめなさい?!」

僕は我が家の価値を守るためにも
零点なんて試験でも取ったことがないオトコだ。
零点はこんなにダメージがあるものなのか……?


「アタシ零点は好きよ、増えていくし。
 満点をキープするよりよっぽど楽じゃない!」

「わくわくしていたアルファは
 本当に零点かなぁ?」

デルタが言い合いの中、口を開いた。

他のオトコふたりは、よく間に入ったな、
というこころの声がダダ漏れの表情だ。



バニラは香りを楽しんでいた瓶に蓋を閉め、
デルタと目を合わせた。人差し指を立てる。

「そのゼロ点がミソよ、ミ・ソ!」

首を傾げるデルタ。

「花1本のジェントルマン。
 アナタ本当に答えを知りたいと思ってる?」

僕はただ、頷いた。


「お花の答えを探している過程で
 『あの言葉』は言ってる?」


……あの言葉ってなんだ?


「知らないようじゃあアナタは一生、
 花1本の”零点”ジェントルマンね」


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