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800年 祈りの物語 〜アニメ 平家物語に寄せて〜

鎌倉殿の13人がクライマックスを迎えたと聞き、この年の瀬に改めて平家物語について書きたくなった。
鎌倉殿が源氏視点の物語であるとすれば、平家物語はその名の通り平家視点での平安から鎌倉時代、激動の渦のなかの人々を描いた作品である。
まず、どんな物語なのか、公式ページからあらすじを引用したい。

《祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす》

平安末期、平家一門は、権力・武力・財力あらゆる面で栄華を極めようとしていた。
亡者が見える目を持つ男・平重盛は、未来が見える目を持つ琵琶法師の少女・びわに出会い、「お前たちはじき滅びる」と予言される。
貴族社会から武家社会へ
日本が歴史的転換を果たす、激動の15年が幕を開ける。
アニメ平家物語公式ページより(https://heike-anime.asmik-ace.co.jp/)

「見る」こと 「語る」こと

ここで原作平家物語と比べて脚色した大きな点としては、

  1. 語り手として、未来が見える眼をもつ「びわ」が登場している

  2. 重盛が「死者を見る眼」を持っている

ことの2点が挙げられる。ここで思い出して欲しいのが、平家物語が琵琶法師によって口頭伝承として伝えられた側面が大きいということだ。では琵琶法師とはどのような人たちか、また引用したい。

琵琶を弾奏しながら物語などを語った僧形(そうぎょう)の芸能者。ほとんどが盲人であったが、なかには晴眼者もあった。平安中期に、中国から渡来した琵琶を用いて経文を読唱する琵琶法師があり、平安末期には寺社縁起譚(たん)や合戦物語を語り歩いた。鎌倉時代に入ると『平家物語』を生仏(しょうぶつ)という盲僧が語ったといわれ、その系譜は平曲(へいきょく)とよばれて進展した。
日本大百科全書(ニッポニカ)より

おわかりいただけただろうか。

ほとんどが目の見えない人たちによって語られた物語を、常人よりも「視える」キャラクターによって語っていくのである。この設定を見た時私はなるほどなと膝を打ってしまった。
確かに平家物語は神の視点で語られており、あらゆる場所のあらゆる時間軸のことが「視える」者でなければ語れないが、なるほどそうくるかと唸ってしまった。
しかしながらこの物語が「聴くこと」をおろそかにしているかというとそうとも言えないのである。
平家物語作中では、原作の原文そのままを吟じるシーンが効果的に挿入される。びわの声を当てている悠木碧さんご本人が吟じられている。
このシーンが、非常に心を打つのだ。古い言葉であるが故に、すっと内容が理解できる人はそう多くはないだろうが、声に込められた感情がそのまま勢いを失うことなく心を震わせるのだ。ご興味のある方は是非原文を手元に置いて見返してみてほしい。

『平家物語』を現代の歌へ

次に、主題歌『光るとき』に触れたい。私はこの曲の歌詞をじっくりと読み、聴いてから、これは「現代版平家物語だ」と強く思った。

何回だって言うよ
世界は美しいよ
君がそれを諦めないからだよ

最終回のストーリーは
初めから決まっていたとしても
今だけはここにあるよ
君のまま光ってゆけよ
羊文学『光るとき』

いつか終わる定め。それが分かりきったものであっても、「今」を諦めないからこそ世界は美しい。
12世紀末から変わらない、一瞬を生きる人々の煌めきを現代版の歌にするとこうなるのである。唸るしかない。泣く。
今を生きる自分も、物語の向こうの遥か彼方のあの人も、変わらないものがある。それが古典を紐解く醍醐味だと思っているのだが、この作品はそれを見事に表現し尽くしてくれている。

私は源義経が大好きなので、実は平家物語の中の源氏が活躍する場面ばかり読んで満足していた。が、当然のことながらこの物語は平家の人々を軸に読むことで真価を発揮する。
大好きな木曾義仲も描かれる視点が変わればまったく別人のように見える。そんな視点の妙も感じることができる。

結びとして、少し語らせてもらうと、今、このタイミングでここまで力を入れたアニメ化を平家物語でしてくれたことに感謝しかない。このnoteのタイトルにも掲げさせていただいているが、なぜ「祈りの物語」なのか、本編を見て感じてほしい。


あわせて読んでほしい本

  • 『平家物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』角川ソフィア文庫

みんな大好き(?)ビギナーズ・クラシックス。
日本の古典を原文を大切にしながら初歩から味わえる安心安全シリーズ。
アニメのそれぞれのエピソードを解説つきで深めることができるので、2巡目以降手元に置くのが非常におすすめ。これを読むだけで物語の解像度が格段に変わる。アニメで要所に挿入される原文もこの本で確認することができる。

  • 『君の名残を』浅倉卓弥

『四日間の奇跡』の作者・浅倉卓弥さんが書いたミステリ。
現代の高校生が12世紀末にタイムスリップし、巴御前、弁慶として生きることとなり、帰る方法を模索しながらも時代の渦に巻き込まれていく...という物語。
巴御前かっこ良すぎるし木曾義仲がやばい。ファンになるしかない。
この作品を読んでいると平家物語で語られる木曾義仲のイメージとは全く違って面白さがある。

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