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(東京が雨の日にだけ更新)図書館と雨

窓際の特等席にはパソコン男 と音。
カチャカチャパチ。カチ。

カチャカチャ。パチパチン。


他に聞こえてくるのは衣擦れの音、
硬い絨毯を踏みしめ移動する誰かの体重。

カウンターの方からは、“今まさに仕事中”という意志を含んだピッという電子音。

多くのみんなが下を向き、本を読む。
心は前や上を向く。目線だけが下を向く。

勤勉さか、それとも逃避なのか、保留なのかは、見分けがつかない。
とにかく本に向かう場所。


手に取られない、動かされない本。
役目は光を遮ること。壁を作ることだけになってしまった本。

価値があるのか、なんて考えてはいけない。
作り手の想いに値段はつかない、つけられない。

滑走路のように光を放つ長く白い蛍光灯。
場末の中華料理屋のそれと同じようなデザインの、古めかしい換気扇。
おもちゃのように頼りない、プラスチック製の踏み台。
特設コーナーに人が立ち止まるのは、いつのことになるだろう。


窓に貼りつく雨の滴は、ガラスの向こうからこっちを見ている。
世界の全てが、こちらを見ている。

カチャカチャ、パチパチン。

本と、本を読む人間だけが気づいていない。
全盛期を終えた桜の木が、風と雨で揺れ、揺れる。

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