#189 ありがとう、New York・Manhattanニューヨーク1人旅  2018年11月18日(日)18日目・・・10

ルーフトップバーの広いバルコニーを隅から隅まで歩き、写真を撮りまくった。どこからでもEmpireを臨めるバルコニーは、他にも写真を撮る人たちがいて、そこに混ざって私もたくさん撮った。撮りまくった。思い残すことがないように、夢中で撮った。

ふと、振り返ると、若いカップルが撮影スポットの順番待ちをしていたのだが、私はあまりに夢中で気づかなかった。邪魔をしていたような気がして、「I'm sorry」
と謝ってすぐにその場をどいた。

あちこち歩き回って散々写真を撮りまくったのに、
もう、思い残すことはないと思ったのに、
お尻に根っこが生える前に椅子から立ち上がったのに、
やっぱり帰れなかった。
もう一回だけ、最後にもう一回だけバルコニーをひとまわりしたら帰ろう。

自分で往生際が悪いなと思いながら、まだウロウロし、戻ってくると、さっき謝ったカップルとまたすれ違った。暗かったのでハッキリとは確認できなかったが、2人とも黒髪で、しゃべらなければ日本人と言われても納得してしまうような、アジア系の顔立ちをしていた。
勇気を出して思い切って、アイドルのように可愛い女の子に頼んでみた。「Empireをバックに写真を撮って」
もちろん英語では言えないので、日本語で言い、自分のiPhoneを差し出しながらEmpireを指差した。女の子はすぐに察して満面の笑みで快諾してくれた。彼は黙って女の子の様子を見守っていた。そのまなざしがクールでいて優しく、映画スターのようなオーラを放っていた……ように見えた。

女の子はEmpireをバックに何枚か私の写真を撮ってくれた。
「Thank you」
とお礼を言ってiPhoneを受け取ろうと一歩前に出たところ、写した写真を確認した彼女が、
「#$%&‘&フラッシュ!“#$%&’(」
と言って、私のiPhoneの画面をトントンとタップしている。
どうやらフラッシュがOFFになっていたために、人物(私)が黒く写ってしまったようだった。彼女はフラッシュをたいたら明るく写ることを知っていたらしく、すぐに操作して、今度はフラッシュ付きで何枚か撮ってくれた。そして、ちゃんと撮れていることを確認してから、私にiPhoneを返してくれたのだ。なんて親切なのだろう、と感激しつつ、
「Thank you! Thank you very match! Thank you!」
と何度も何度もお礼を言った。お礼なら私でも英語で伝えられる。どこまでどれくらい伝わったかはわからないが、心を込めてお礼を言った。可愛い彼女からは、
「Have a nice day」
と返事が返ってきた。嬉しくて涙が出た。
目の前のEmpireから、離れなければならない悲しさを抱えたままではあったが、最後の最後に、こんな素敵な出来事に出会えて、本当に良かった。

New Yorkありがとう。 Manhattanありがとう。やっぱり素敵な街だ。
憧れ続けた街は、憧れ続けたことが間違いではなかった。

溢れた涙を手の甲で押しつぶして、さっき上った青いライトの階段で階下に降りた。
バルコニーから階下の室内に降りると、さっきの夢のような世界とは一変、現実に引き戻された。けれど、それが私には都合がよかった。これでもう後ろ髪惹かれずに、すんなり帰れる。さ、おトイレで用を済ませて帰ろう。
店舗内なのでおトイレのマークもわかりやすい。

ドアを開けると、うっ、ううっ。ゲゲーーッ。
ツキーンと鼻を衝く異臭と、床に転がって巻が緩んだトイレットペーパー、無数のゴミが床に散乱していた。何人ものお客はいたが、私はその汚さと強烈に鼻に衝く異臭で、中に入ることができなかった。ここに入るくらいなら我慢する。吐きそうなほど気持ち悪いおトイレが、お店の造りとはかけ離れておりガッカリした。ガイドブックにも大々的に取り上げられ、最先端のBarのおトイレが、おしゃれな宣伝とはあまりにもかけ離れた現状に、複雑な思いでそそくさと下りエレベーターに乗り込んだ。

今度は、ギャルねえさん&ギャルにいさんより、少しだけ大人なカップルと一緒だった。もうここまで来たら、1人だろうが、誰かと一緒だろうが、どうでもよかった。

何時間か前に、あんなにオドオドと尻込みしながらエレベーターに乗っていた私は、もういなかった。うん、後悔はなし! 
お誕生日ミッションはすべて無事に終了した。 

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