#13 機内・人生初の機内食〝何だ、日本人かよ〟・・・ニューヨーク1人旅 2018年11月1日(木)1日目 13

成田空港に着いた12:30頃、Starbucksでサンドイッチを食べて以降、水を飲んだだけで搭乗したので空腹だった。

旅の準備中に、ANAのオペレーターから、離陸2時間ほどで食事、着陸1時間半ほど前に軽食が出ると聞いていたので、もうすぐ出される機内食を楽しみにしていた。
海外旅行経験者からは、そこまで楽しみにするほど珍しくも美味しくもないと聞いてはいたが、食いしん坊の私は機内で食事をするという、初の非日常体験を心待ちにしていたのだ。
 
ベルト着用サインが消え、しばらくすると、小袋に入ったあられとドリンクが配られた。柑橘系のドリンクを頼み、あられを食すと小腹は少し満たされた。
 
3列シートの窓側に座り、真ん中の空席を挟んで、通路側には東南アジア系の小柄な中年男性が座っていた。
あられやドリンクが配られたあたりから、その男性は、自分のテーブルと真ん中の空席に付いているテーブルを出し、食べ物やドリンクを我が物顔で広げていた。気にはなったが大きな迷惑をこうむっているわけではない。
これから14時間も同じ列なのだから、余計な気苦労はしたくなかったので黙っていた。
 
しばらくすると、ディナーのメニュー表が配られた。同じ列の男性はANAの日本人キャビンアテンダントに、〝Thank you〟と流暢に言っていたので、どうやら母国語は日本語ではなさそうだ。日本語が通じないとわかると、急に気が楽になった。敢えて話す必要もないし、こちらが黙っていればトラブルになることもないだろう。いざとなったらキャビンアテンダントが間に入ってくれるだろう。別に、男性が何か文句を言ったわけでも嫌なことをしてきたわけでもないのに、勝手に変な怪しい人に感じてしまった。
 
ふと目を覚ますと、配膳が始まっていた。すでに食べている人もいた。
どうやら私はうたた寝をしていてスルーされたらしい。
〝しまった、出遅れた〟食いしん坊の私は、急に空腹に襲われ、初機内食が待ちきれなくなった。〝ああ~、CAさん早く来ないかなぁ〟と、わざと背筋を伸ばし、座高を上げて周囲を見回していると、気づいたCAさんが来てくれた。食い意地丸出しの自分が少し恥ずかしかった。

CAさんが、日本語で書かれた、ディナーメニューが写真付きで載っているラミネートカードを持ってきてくれた。〝やっほぉ~い〟どれどれ。
ディナーは4種類の中から選べるようになっており、私の人生初機内食は、ポークカツ卵とじ丼に決まった。
「お決まりですか?」
と聞かれ、素直にCAさんに言えばよかったものの、何故か一瞬どうやっていったらいいの?と考えてしまった。
メニューを言ってもいいし、何なら〝これっ!〟と指させばいいものを、緊張からか固まってしまった。メニュー表を持ったまま、注文するでもなく、質問もせず、じっと固まっていると、CAさんはどうやら私が日本語が理解できないと思ったらしく、英語で何か話してきた。
い、い、いや、私、日本人なんですけど。えっと、えっと、どうしよう……。機内に響いている大きなエンジン音の中、小さい声で、
「これを……」
とポークカツ卵とじ丼を指さした。きっとCAさんは思ったに違いない。
〝何だよ、日本人かよぉ〟
いやぁ~すみませんねぇ。何か緊張してしまって……。
 
ほどなくして目の前にポークカツ卵とじ丼がやってきた。そして同じトレイの上には、酢の物やサラダ、小鉢の海苔巻きと惣菜、クラッカーにチーズ、抹茶のシュークリーム、ペットボトルのお水が、所狭しと乗っていた。

人生初の機内食

 普段、揚げ物はほとんど食べないのだが、白米が食べたかったのと、珍しくお肉の気分だった。食べてみると、みんなの言う通り、特別美味しいと言うほどでもないが、非日常の食事を充分に味わえた。
少なくとも調理嫌いの私が作るより、格段に美味しかった。 

8割方食べ終え、抹茶のシュークリームが食べたいが、満腹になりかけていたので迷っていた。
すると、通路側の東南アジア系中年男性が、空席の真ん中の座席のテーブルの上に、自分の抹茶シュークリームとチーズとクラッカーを置き、私に向かって両手のひらを差し出してきた。
どうやら私にくれるために〝どうぞ〟と言っているらしかった。
こんな所で見ず知らずの人から食べ物をいただくとは思ってもいなかったので、若干焦って戸惑ったが、せっかくのご厚意なのでいただくことにした。「あらぁ~、どぉ~うもすみませぇ~ん。ありがとうございますぅ~」
学校の授業でしか英語を話したことがなく、ましてや日本語以外を使ったこともなく、突然のご厚意だったので、お礼は当然ベッタベタの日本語になった。

ありがたく頂戴し、自分の抹茶シュークリームとチーズとクラッカーも残し、鞄に入れた。東南アジア系の小柄な中年男性は、何もしていないのに、私の中で変なヤツから良いおじちゃんに勝手に昇格した。

ふと、肘置きの奥を見ると、後ろの席の人のつま先が見えていた。
何だかおかしくなって、JFKに到着するのが、ますます楽しみになった。 

後ろの席の女性の足先

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