ニューヨークに憧れる理由その3 嘘を書かなければならない心の痛み・・・憧れの街ニューヨーク・・・9  

座右の銘にしている言葉に、
【良心に背く出版は、殺されてもせぬ事】
がある。
新潮社の創業出版人・佐藤義亮氏の名言だ。

ネットと書籍を連動させて、医師を紹介する案件に関わったときのこと。
皮膚科医の取材案件を依頼された。たまたま自宅の近くで、徒歩で行ける取材&インタビューだったのだが、気乗りしなかった。
なぜなら、患者としてかかったことがあり、その皮膚科医がヤブ医者だと、知っていたからだ。
けれども、医師を紹介する記事を書かなければならないため、その皮膚科医の美辞麗句を少々イラつきながら聞き、原稿にした。
案の定、編集者からダメ出しが出て書き直し、ヤブ医者を腕のいいスーパー皮膚科医に書き換えた。
嗚呼、私は良心に背いていると思ったら、悲しくなった。

もしも記事を読み、それが飲食店の紹介だったとして、
〝なんだ、美味しくないじゃないか!〟
と思ったら、2度と行かなければいい。
けれど、病院という所は、ほとんどの場合、患者はその辛さから〝助けて〟とすがる思いで行く場所だ。もし、私が書いた記事を読んだ読者がその皮膚科へ行き、私と同じように〝なんだ!ヤブ医者めっ!〟と思うようなことがあったら、私はいたたまれない。

皮膚はまだ目に見えるが、脳や臓器は見ることができない。ヤブ医者が重症疾患を見逃す失態を犯し、人の命にかかわることは充分考えられる。

傷んだエノキの写真を撮るために、新鮮なエノキに茶色い絵の具を塗りつけたり、詩的な文章表現で人の心に感動を与えるクリエーターが、とんでもない腹黒だったこともある。

もちろん、華々しい業績を保持する社長や、全財産をなげうって子どものために尽力する素晴らしい人にインタビューしたり、記事を書くこともある。
でも、やっぱり良心に背かなければならないことは、したくない。

新聞記者をしている仲間が、火事で家と家族を無くした人に取材をしなければいけない辛さを嘆いていたことがあった。不謹慎かもしれないが、そこに嘘やごまかしがなかったことが羨ましかった。
そして良心に背かなければならない記事案件ばかりが、年齢のせいで回ってくることに、疑問を感じたのである。
(必ずしも全ライターが当てはまるわけではない)

だからこそ、ニューヨークで、年齢に左右されずに、本当のことを書きたいと思ったのだ。

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