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#95 パラドキシカル・シンキング


コンフリクト・マネジメント

ビジネスシーンでは,同じ目的であっても人によってアプローチの手順や手段としての方法論が違うなどして,意見が対立することがあります。ところで,このような意見の対立=コンフリクトは避けるべきものなのでしょうか。価値創造の観点からすると,コンフリクトはむしろ歓迎すべきもので,真剣な討論や対話を通じてブレイクスルーが起こり,新たな価値が生まれることもあります。
逆のケースでは,チームワークを扱った企業研修でコンセンサスゲームを行った際,結論が早く出たチームの正答率が必ずしも高いわけではない,ということがしばしば起こります。これは,和気あいあいとチーム運営をしてコンフリクトが起こらなかった場合にパフォーマンスが凡庸なものになりがち,ということでもあります。

コンフリクト・マネジメントの概念図

このように意見の対立を上手く統合し,お互いを満足させるようなWin-Winの方向性を見出すことをコンフリクト・マネジメントといい,ファシリテーターには必須のスキルとなります。マネジメントのポイントは,意見は対立してもお互いの人間性は否定させない,あくまでもコトとしての論点に絞って討議させる,ということです。当事者同士が感情的にならないように調整しながら, 適宜論点を整理したり質問したりするなどして,討議を合意形成に向けてリードします。そして,物事の違う側面が見られる多面的の視点を与える,相反する2つの事象を包括するより高い視座を与えるなどの働きかけをします。

ファシリテーターのスキル

  1.  多面的な視点や高い視座を与える
    発生したコンフリクトに対して,物事の違う側面が見られる別の視点を与えたり,相反する2つの事象を包括するより高い視座を与えたりします。このようにして,新たな価値を見出し合意形成するのが,コンフリクト・マネジメントの醍醐味です。

  2. 拡散と収束のフェーズを使い分ける
    アイデアをたくさん出したい時は拡散,議論をまとめたい時は収束させるように働きかけます。閉塞感が漂った時はオープン・クエスチョン,話が広がりすぎた時はクローズド・クエスチョンを使うなどして,討議の場をコントロールします。

  3. 抽象度や粒度を揃える
    人によって具体的であったり抽象的であったりするので,今この場面ではどのレベルの抽象度で議論しているのかを,適時にアナウンスします。精度や粒度についても,議論しているメンバー間の差異を減らすように働きかけます。

  4. 要所で流れを整理する
    適宜,これまでの議論の流れを整理し,必要に応じて問題を構造化してまとめ,その場に提示します。「つまり,これまでの議論では,●●に対して▲▲という問題点と◆◆という問題点があるということですね」など。また,効果的にたとえ話をして,メンバーの理解を進めることもあります。

  5. 場の雰囲気に配慮する
    発言の少ない人の意見を引き出すように配慮します。例えば「今の●●という方法についてどうお考えですか?」など。大きく相槌を打ったり頷いたりするなどして,メンバーの意見を十分に引き出します。また,同時に時間が決まっている会議などでは,タイムマネジメントも行います。

 パラドキシカル・シンキング

ウェンディ・スミスとマリアンヌ・ルイスの共著による「両立思考」(英語名:Both/and Thinking)は,トレードオフあるいは相矛盾する事柄に直面した場合,択一思考に陥るのではなく,両立する方法を考えるという思考法と行動様式を説明しています。このパラドキシカル・シンキングは,先の見えない局面において,リーダーがとりうる有効なアプローチだと考えられます。このような局面を乗り越えるには,二つを統合するクリエイティブな方法を見つけるか,綱渡りのように一貫して非一貫的な態度を取るか,という方法が示されています。
コンフリクト・マネジメントにもみられる統合型に対して,綱渡り型の考え方は示唆に富んでいます。というのは,複雑性が増し「統合」の方向性が見えない中,「えいや」で選択肢を限定する「択一型」の誘惑を排除して,あえてどちらにも偏らない「綱渡り型」で動くというのは,却って勇気のいることだと思います。VUCAの時代,その不安定な立ち位置を楽しみながら踏み外さないように一歩一歩前に進んでいく,そんな行動様式が求められるのかもしれません。

パラダキシカル・シンキングのフレームワーク

パラドキシカル・リーダーシップ

パラドキシカル・リーダーシップはパラドキシカル・シンキングを応用した,一見矛盾する目標,価値観,行動を管理する能力を重視する,新しいリーダーシップ理論です。この理論では,有能なリーダーはパラドックスを解決しようとしたり無視したりするのではなく,パラドックスの中に存在する緊張を受け入れ活用しようとします。それによってパラドキシカル・リーダーは,組織にイノベーションクリエーションを起こすことが想定されています。
リーダーが直面するパラドックスには,革新と安定,寛容さと厳粛さ,理想論と現実論,といったものがあります。リーダーはこのような緊張関係を受け入れ,組織内の革新性,創造性,成長を促進するためにこれらを活用します。そしてパラドックスを管理するための新しい創造的な方法を見つけ,それを取り入れることでより柔軟で適応力のある組織を作ることができます。VUCAの時代においてリーダーには,相矛盾するものそれぞれの強みを活かし,バランスのとれた効果的なリーダーシップ・アプローチを構築して,激しい環境変化を乗り切ることが期待されているのです。

※本noteは「リーダーシップ」誌(日本監督士協会)令和6年8月号の執筆記事「ゼロベース思考トレーニング」の一部を加筆したものです


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山岡雄己/どぶ板経営塾
正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html