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#88 経営戦略で「自分探し」に陥らない

"The best way to predict the future is to create it."
~未来を予測する最良の方法は未来を創ることである~

P. Drucker 

自分探しの旅

自己啓発の文脈で「自分探し」の旅が取り上げられることがあります。自分の本当にやりたいことは何だろう,自分の人生にはどんな意味があるのだろう,と自問自答するのは青年期にありがちな悩みです。また最近では,会社という組織から離れた中高年においても,自分の人生の意味を見失って鬱々と「自分探し」を始める,というようなこともあるようです。

それとは逆に過去に向かって,自分の幼少期を過ごした場所や自分の祖先やルーツを探す旅もあります。これは運命や宿命を信じる傾向の強い人が,過去を掘り起こすことで何かしら自分に与えられた使命を見つけることができると感じるからかもしれません。これはある種のノスタルジーで,自分の過去に何らかの意味を見出す旅だともいえるでしょう。

基本的に人間は変化より安定を好む傾向がありますから,現在の延長線上や過去にうまくいっていた自分をベースにして,何かしら人生に意味を見出したくなるのかもしれません。ところで,自分の生き方を思い悩んだり,運命づけられた「本来の自分」なるものを探したりする暇があったら,「今」に集中して行動すべきだという考え方もあります。確かに,人は成長し変化するものと考えると,あまり過去の思考パターやか成功体験に縛られるのはもったいないような気もします。

経営における「自分探し」

それでは,経営における「自分探し」とはどういうものでしょうか。過去を振り返って自社の「強み」を再定義するとか,その「強み」をベースに将来ビジョンを描くとかいったことかもしれません。確かに自社の「強み」を定義して経営のDNAを解き明かすのは大切なことですが,それを固定化してしまうのは危険です。ダーウィニズムによるならば,自然界は強者生存ではなく適者生存で成り立っており,経営においても「強み」よりは「適正」を優先すべきです。なぜなら「強み」はある一定の条件下のものであり,その前提が変化したのであれば「強み」ではなくなることもあり得るからです。

意思により未来を構想する

未来構想力を発揮しヴィジョンを示す

好事魔多し,好調な時にそれに酔いしれて足元をすくわれないように気を付けるのは当然のこととして,冷静あるいは客観的に好調であった要因,すなわち「強み」を分析しすぎることにも注意が必要だと,個人的には感じています。上手くいった要因などは,5年後に経営学者が分析してケーススタディにしてくれればいいだけの話で,経営者は上手くいったご縁や関係者に深く感謝の意を示した上で,これからどうするのかという未来構想に注力すべきでしょう。

経営は「意思」です。「今」にフォーカスし「行動」に集中するのは大切なことですが,「ヴィション」すなわち未来構想なき経営では従業員のエンゲージメントは高まりません。VUCAの時代で予測が困難な中,過去の遺産ではなくどのような未来を創りたいかという「ヴィジョン」にフォーカスした経営が,これからますます求められてくるものと,筆者は思料します。

〔こありん先生チャンネル〕YouTube配信しています@(・●・)@

正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html