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現場を見なきゃ|『メーター検針員テゲテゲ日記』読書録

『メーター検針員テゲテゲ日記』を読みました。

こんな本

帯にはこう書かれています。

「あと数年でなくなる仕事」
それでも現場の苦労や汗はなくならない。
検針員がえぐりだす労働と人生のリアル

検針員の仕事は、電気メーターを探し、その指示数をハンディに入力し、「お知らせ票」を印刷し、家主の郵便受けに投函すること。1件の単価は40円。著者の川島さんは、50歳からの10年間を電気メーター検針員として過ごされ、その時の実際のご自身の経験をまとめられたのがこの本です。この検針の仕事は実は、スマートメーターという新しい電気メーターに導入により、あと数年でなくなってしまう。川島さんは、まえがきでこう述べられています。

メーター検針員という仕事はなくなっても、本書で書いた現場で働く人の苦労はなくならないだろう。

あらゆる仕事現場に汗水たらして働いている人がいる、そのことをリアルに感じていただけたらと思う。

犬に噛まれたり、台風の中山間部を検針で回った現場での苦労話や、電力会社の理不尽な対応など、検針員時代のリアルなエピソードがたっぷり綴られた本書ですが、悲壮感はなく、あくまでもユーモアを交えたぷっと笑える構成になっています。

現場を知らないという罪

IT化で無くなる仕事にも苦労と物語はあるんだよ、という本を予想していましたが、そんな中途半端なものではなかった。この本から私が何より感じたことは、現場を知らないという罪、悪です。

検針員の現場を知らないがために、サービス会社や電力会社は理不尽な対応を繰り返します。例えば、ハンディの盗難を防ぐために、現場への直行直帰を禁じ、事務所での管理とするという仕組み。住宅やビルがが密集する都心ならまだしも、自宅から職場、職場から現場が20km以上離れている山間部で、どれだけの時間をロスさせるのか。それはすなわち、単価40円の検針の出来高で稼ぐ検針員の生活の糧を奪うことに繋がる。そんなことを、涼しい事務所で一方的に決定し、指示してくるという現実たるや。

ー私も現場を知ろうとしなかった

メーカーに勤務していた頃のことを思い出しました。私は住宅設備のメーカーで法人営業の部署に勤めていたため、ガス会社の担当をしていた時期もありました。
「ガスの点検や検針はお客様の家の中に入れる絶好のチャンス。そこで水回りの設備を見て、リフォームの提案に繋げましょう!」
ガス会社の本社と弊社でタッグを組み、担当している地域のサービス会社に提案して回っていました。チラシを作って案内したり、講習会を企画させて頂いたこともありました。

当時とてもお世話になった上司は「現場にいけ!」と口癖のように話していました。「開栓担当の人とか、ガス会社の社員の業務に1日同行させてもらって勉強するのも役に立つよ。」と具体的にアドバイスしてくださった先輩もいました。けれど、私はやらなかった。単純に他の業務に追われて余裕がなかったこともありますが、「そこまでやる必要あるの?」という気持ちもあったと思います。

その時のことをすごく反省させられました。
状況は違えど、時間に追われる検針員や開栓担当の方に、その苦労も知らずに一方的に「水回りのリフォーム提案してください!」と言っていたなんて、そりゃ響くものも響かないよな…。
恥ずかしさと申し訳なさがじわじわと込み上げてきました。

ーそしてこれから

「現場を知らない」という言葉はよく耳にします。では、そこから踏み込み、実際に現場を見に行こうと行動できる人はどれくらいいるのでしょうか。
私は今、児童養護施設で勤務し、児童虐待という問題の現場の一つには立てているのではないかと思っています。この分野でも、現場の声を本当に聞いたのかな?というような政策や方針が打ち出されていたりします。今後自分のキャリア、問題への取り組み方を考えていく上で、「現場に立ち返る」という姿勢は絶対に忘れてはいけないなと強く思いました。

結びにかえて

シリアスな読書感想文になりましたが、検針員の仕事の現場が見えたこと、そして現場を知る大切さを思い出せたこと、という点でとても考えさせれた本でした。この本は実は『交通誘導員ヨレヨレ日記』からのシリーズものだとのことで、他の3作にも読んでみたいと思いました。まずは『マンション管理員オロオロ日記』かな。
他国を見よともいうけれど、日本の中ですら、まだまだ知らないことがたくさん。世界は広いです。だから読書は楽しい。

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