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日記「うまれつき」

手術室の扉ってのは身体を治す為への扉なのにとても重々しくてなんと無機質なことか。入院の為の部屋や診察室は木製でできていていくらか温かみのある感じだけれど、金属の扉と休まらない微妙に広さのある空間は、こんなにも人を不安にさせ心拍数を走らせるのか。

人間の身体は、聞き慣れた臓器、聞き慣れない臓器、骨、管、ぜい肉、筋肉、色んなものでできている。そんな身体の一部、半月板。半月板?スポーツ選手が半月板損傷で手術、なんてフレーズは耳にしたことはある。半月板は膝関節の中にあり関節に加わる体重の負荷を分散させる役割と、関節の位置を安定にする働きをしている。医師の説明によるとイカのような弾力と質感らしい。通常はCのような形をしている。

娘の膝に異常がみられたのは10歳の時。膝の曲げ伸ばしの際に特に真っ直ぐに伸ばす時、がくんっと関節が外れるような感じになる。特に痛みはなく初めは面白がっていた。でもやはり気になり近くの整形外科に行くと、成長段階なので特に問題ないとのこと。とりあえず様子をみることにした。

それから数年。学校から側弯症の疑いがあると年に一回、大学病院で経過観察の診察を受けていた。17歳、最後の診察。もう側弯症の心配はないと太鼓判を頂き一安心。もう整形外科に来ることもないのでついでに膝を診てもらうと、すぐに膝専門の医師が駆けつけその日のうちに詳しく検査することになった。私も娘もきょとん。言われるがままにレントゲンとMRIの検査。診断は「外側円板状半月板損傷」早々に手術が必要と言われた。お昼までに帰宅して午後はカラオケに行って夜は家族で食事に行こうと予定していた。病院を出たのは16時を過ぎていた。奇しくも娘の17歳のお誕生日。

娘の外側円板状半月板は10歳の頃にはもう日々骨と骨に押し潰され擦り切れていたのだ。医師は言う。最初の診察をした医師は整形外科医として有り得ない。年配者が大半を占める小さな町医者の診断に何の疑いもなく信じた私も悪いと思う。

左は正常な半月板      右は円板状半月板

どうしてこのような形になったのか医師に問う。「先天的なものですね」「所謂うまれつきということですか?」「そうですね」「先生、私のせいでしょうか?」「誰のせいでもないですよ」まるで医療ドラマの中のセリフみたいだと笑いそうになる。こんなやりとりって本当にあるんだ。

9月初旬に無事に手術を終え、コロナ禍で面会できない入院生活は二週間。その後は松葉杖、膝の装具が外れるまで五ヶ月かかった。その後は正座はしてはいけないと少しの制限がありつつ時は過ぎた。

手術から2年。19歳の夏の定期検診。少し前から痛みとあのがくんっが再発していた。10月に検査手術をするとまた早々に治療の手術が必要と言われた。前回の手術で擦り切れた半月板を修復したのだが、また擦り切れているとのこと。擦り切れた半月板を私と娘は「ぱやぱや」と呼んでいる。見た目がイソギンチャクのみたいだから。またぱやぱやになっちゃったんだね。

先日、無事に修復手術をして只今絶賛入院中。娘は痛い思いしてつらい入院生活を送って退院しても元に戻るのに何ヶ月もかかって、文句をたらたらと言う。そして数年後またぱやぱやになってしまったらまた手術をしなければならないことも知っている。半月板修復の手術は発展途上、でも完治に向けて日々研究が進んでいると医師は言う。信じるしかない。娘は文句をたらたらと言う。それでも決して弱音は吐かない。早く退院できるようリハビリの為にできる筋トレを医師に教わり、手術して間もないがベッドの上で筋トレしているとLINEがくる。うまれつき。「正常な半月板に産んであげられなくてごめんね。」17歳の時に私が娘に言った言葉は正しかったのか。

前回同様、コロナ禍の名残りなのか退院の日まで面会はできない。着替えを病院の受付に渡して洗濯物を受付で受け取る。数メートル先の階段を昇ればそこに娘はいるのに会えない。とぼとぼ車に乗りこみエンジンをかけると娘からLINEが届く。おぱんちゅうさぎがピースをしている。

こちらこそありがとう( ・ ・̥ )"
あなたがとても良い子なのも「うまれつき」なのかもしれないね。

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