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クウヲミツメテ

以前放送していたテレビCMで、「みんないろんな役割がある」という広告があった。人それぞれ、違う役割が単語として書かれたTシャツを着ているのだけれど、各人がTシャツを玉ねぎの皮を剥ぐように脱いでいくと、別の役割の単語が出てくる、といった内容のものだ。
あのCMを見た時の衝撃は、今も忘れられない。帰属する社会という枠組みのなかで、私たちはいろんな役割を負っている。いつの間にか、なのか、それとも、積極的に、なのかは人によって違うのかもしれない。

滅多に一緒に仕事をしない後輩と、エレベーターが同じになったので、「最近どう?」と声をかける。「仕事が嫌です。」という返答が狭い空間に響いて、私は逡巡した。その人が、どんな仕事をしていて、何について嫌なのか、私には分からない。
復職して以降、以前のように、他人に合わせすぎないことを努めて実践している私は、「なるほどねー、私はこうしてるなぁ。」と返した。
キャッチボールがうまく届かず、ボールが地面を這うように、「それは聞かなかったことにします。」という言葉が残された。

はて、こんなものの数分の会話を私は空をぼんやりと見上げながら何故思い出しているのか。最近、こういうことが続いているからか、はたまた、少し暮らしが落ち着いてきたからなのか。

このところバタバタした日々を過ごしてきた為、その間の記憶がほとんどといっていいほどない。その為に自分だけが忙しいと思い込んでいるのかもしれないな、と嗜める私と、もう少しぼーっとしていたい私とが拮抗している。

(私だって仕事したくないときあるよ。)

そんなことを思いながら自分のTシャツに何が書いてあるのか、靄がかかるそれに目を擦っている。

ゆるーくやらせてよ。お願いだからさ。

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