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メタバース×アート展示会~NFT保有者はメタバース内で自由に展示できる?~

1.メタバース展示会『NFT FESTA』開催

2022年1月28日から30日の3日間、NFTクリエイターによるメタバース展示会『NFT FESTA』が開催された。会場となるメタバース空間へは、必ずしもVR機器やアプリなどの使用は必須ではなく、PCやスマ―トフォンからリンクを踏むだけでアクセスが可能である。

個人のNFTクリエイターたちの出展費用は無料で、出展の募集開始の7時間後には当初の想定の100名を超える応募者が殺到したとのこと。最終的に300点以上の作品がメタバース内で展示された『NFT FESTA』。詳しくは以下の記事などをご覧いただきたい。

またNFTを活用したオープンメタバース上の文化都市「メタトーキョー」(MetaTokyo)が、Decentraland(ディセントラランド)内においてポップアップミュージアム「SPACE by MetaTokyo」の建設を行い、その第1弾として2021年11月18日から12月10日までの期間において、「ジェネラティブアート」にフォーカスした展示がなされたことも記憶に新しい。

その他、日本のメタバースプラットフォームの先駆けともいえる「cluster」(クラスター)内でもバーチャル展覧会が多数行われるなど、今後ますますメタバース内でのアート展示は増えてくるといってよいだろう。

2.メタバース内でのアート展示の許諾の要否(NFTと著作権との関係)

そうした中、今後メタバース上で展示会を開催する主催者(プラットフォーマー含む)及び出展者にとって一つの課題となるのは、そもそもそのアートを展示するには誰の許諾が必要か?という点である。

この点、まずはリアルな会場で展示する場合を紹介しよう。

(1)リアル会場の場合

たとえば、今ここで私がキャンパスに骨董通りの街並みの絵(リアルアート)を描いたとする。題名は「骨董通りの休日」。
そしてこの「骨董通りの休日」のリアルアートを、友人(K)にプレゼントする。
友人(K)は、私の許諾を得ることなく、その絵をリアル会場において展示することができるだろうか?

これを法的にみると、「骨董通りの休日」の絵についての著作権を有しているのは私であり、「骨董通りの休日」のオリジナルの所有権を有しているのは友人(K)ということになる。(これは漫画の単行本を購入した場合、単行本の所有権は購入者が持つが、その漫画の著作権は作者もしくは出版者に残ったままというのと同様である。)

本来、美術の著作物の原作品(ここでは「骨董通りの休日」のオリジナル)を公に展示するには、その著作権者(ここでは私)の許諾が必要となる。

(展示権)
第二十五条 著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。

しかし、著作権法においては、例外的に美術の著作物の原作品の所有者は、著作権者の同意を得ることなく、その原作品を公に展示することができるという規定が存在する。(ただし、屋外に恒常的に設置する場合は除く。)

(美術の著作物等の原作品の所有者による展示)
第四十五条 美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。

つまり、リアルアートの場合、その所有者は著作権者の同意なくそのアートを展示でき、展示会の主催者としてもアートの所有者の許諾さえ得れば、そのアートを展示したとしても何ら文句は言われないのである。
したがって、友人(K)は「骨董通りの休日」の絵を、著作権者である私の許諾なく、リアル会場で展示をすることができる。

ではこれがメタバース内の会場の場合はどうか。

(2)メタバース内の会場の場合

先ほどの例とは異なり、たとえば、私がデジタルアートとして「骨董通りの休日」という作品を描いたとする。
そしてこの「骨董通りの休日」のデジタルアートを「NFTアート」として、友人(K)にプレゼントする。(著作権譲渡はないものとする。)
友人(K)は、私の許諾を得ることなく、この「NFTアート」をメタバース内の会場において展示することができるだろうか?

まず先ほどと同じく権利関係を整理すると、NFTアートである「骨董通りの休日」の著作権を有しているのは私である。この点は変わりない。
そしてこの「NFTアート」の所有権はというと、NFTは形のある有体物ではないため、そもそも現在の法律上、所有権は発生しない。
よって、友人(K)は「骨董通りの休日」という「NFTアート」の所有権を持つわけではなく、あくまで「NFTアート」の保有者ということになる。

では、「NFTアート」の保有者は、その保有するアートを自由にメタバース内で展示できるかというと、この点は注意が必要である。

本来、デジタルアートをメタバースといったインターネット上で公に配信する場合には、そうした利用につき著作権者の許諾が必要である。

なお、こうした自己が行いたいコンテンツ利用のために権利者から必要な許諾を得る作業を「権利処理」などという。

この点、先ほどのリアル会場での展示の場合と異なり、「NFTアート」の保有者は例外的に著作権者の許可がなくても、メタバースといったインターネット上でその保有するNFTアートを公に配信(展示)することができるといった規定は存在しない。
(なお、今後メタバースやNFTの概念が浸透するにつれ、何らかのルールが整備される可能性はあるが、少なくとも現状は存在しない。)

したがって、冒頭の質問に答えるとすると、友人(K)は自己が保有する「骨董通りの休日」の「NFTアート」を、著作権者である私の許諾なく、メタバース内の会場で配信(展示)をすることはできない。

※ただし「NFTアート」の発行の際に、あらかじめ当該「NFTアート」の保有者は、著作権者の許諾なく当該アートを公に配信(展示)することができる旨のライセンスが付与されている場合は除く(NFTの場合、通常は何らかの利用権限とセットで与えられることが多い。)この点は、取引を行うことになる「NFTアートプラットフォーム」の利用規約等を確認する必要があろう。

これをメタバース展示会の主催者の立場からみると、「NFTアート」の保有者の許諾さえ得れば、そのNFTアートをメタバース内で配信(展示)できるというわけではなく、そうした配信(展示)につき著作権者の許諾があるかという点をきちんと確認する必要がある。
(少なくとも著作権者からではなく「NFTアート」保有者からメタバース内の展示会出展の申出をうけた場合には、著作権者やその他第三者から当該展示を行うことに対し何ら異議がでない旨をアート展示契約書等で「NFTアート」保有者に保証していただくといった対策も考えられる。)

今後メタバース内でのアート展示会が増え、NFTアートの流通も盛んになるに従い、いわば「アートの展示会はリアル会場で行われる」ことを前提とした現在の法律や契約といったルールから、NFTアートをメタバース内で展示することも想定したルールへとアップデートを図る必要があるといえるだろう。

メタバース・NFTとデジタルアートについては、まだまだ検討したい事項も多数あるが、長くなったのでひとまず今回はこのあたりで。(田島 佑規)


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