物事を笑いに変えられる力、言葉の力、本気の行動力の強さ

岸田奈美さんのことは、何かの記事で読んだり、ご本人が出演した番組を視聴して、ご存知の方も多いかもしれません。

わたしもそうだったのですが、今回初めて岸田さんの著書、
「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」
を読みました。

読んでいて、数年前に読んだ大野更紗さんの「困っているひと」を思い出しました。

書かれていることは絶望的に苦しいことなのに、その書きっぷりが見事に明るく、面白い。

大野さんの場合はご本人の闘病記でしたが、岸田さんの場合はご本人を含めた家族の物語です。

しかも、関西の中でもおそらく筋金入りに面白く、エネルギッシュなご家族。

お父さんは奈美さんが中学生の時、急性心筋梗塞で急逝。

お母さんは奈美さんが高校1年の時に自宅で倒れ、大手術をして一命はとりとめた後、下半身の感覚がなくなり、車椅子生活に。

4歳下の弟・良太くんは生まれつきダウン症で知的障害があります。

つまり、奈美さんは高校生1年生で家族の責任者になったのです。

お金のことや将来の不安など、渦中にいた時には言葉にできないような辛いこともたくさんあったでしょう。

それでも、奈美さんの本を読んでいて感じるのは笑いに変える力の強さ、言葉の強さ、絶対に何とかするんだという意思と、手探りで現実を変えていく、半端ない行動力。

気丈そうに見えたお母さんが苦しみながら入退院を繰り返し、つらいリハビリに打ち込んでいたある日、「死にたい」
と打ち明けます。

実はその少し前、奈美さんはたまたまお母さんが
「もう死にたい」
「歩けないわたしなんて、ヒトじゃなくて、モノになったのと同じ。
子どもたちにしてあげられることもない。
生きてても仕方ない。」
とわんわん泣いているのを聞いてしまいます。

お母さんが倒れた時、
「手術をしても、亡くなる可能性は80%以上。
手術をしなければ数時間後に必ず亡くなる」
と言われて手術の同意書へサインしたのは、奈美さんと高齢のおばあちゃん。

「生き地獄に母を突き落とすことになった」
と激しく後悔するのです。

そして、ある時にお母さん自身から
「ほんまは生きてることがつらい。ずっと死にたいって思ってた」
と言われた奈美さん。

「ママ、死にたいなら、死んでもいいよ」

お母さんの手術同意書にサインしたことで
「自分がお母さんを追い詰めた」
と思っていたからこその奈美さんの言葉でした。

でも、本音はやっぱり
「お母さんには死んでほしくない。」

だから、奈美さんはあえて言い切るのです。

「もう少しだけわたしに時間をちょうだい。
ママが、生きててよかったって思えるように、なんとかするから」

何の保証もないのに「大丈夫!」と言い切って、それから本当に「大丈夫」な現実を、奈美さんは手探り状態で作っていくのです。

そして、お母さん自身も変わっていきます。

しかも、このご家族は、大変なことを乗り越えてなお、底抜けに明るい。

(もちろん、本当に辛くて、目の前が真っ暗だった期間もあったことと思うのですが・・・)

圧倒的に前向きで、笑いに変える力が強く、意図しない?先見の明のあったお父さん。

愛情深くて、穏やかで、思い立ったら行動力の半端ないお母さん。

うまく話せなくても、周りの人とコミュニケーションが取れて見よう見まねで色々なことができ、周囲に助けられるだけではなく、周囲を助けてもいる良太くん。

この本を電車の中で読みながら笑いをこらえたり、目頭が熱くなったり。

読みやすく、とんでもなく面白く、次から次へとページをめくりたくなる本でした。


(甲子園球場で売り子のアルバイトをした話、当時の職場で櫻井翔さんを迎えた時の話なども、お腹がひくひくしました)

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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