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初期の作品から最近の作品まで 「ボテロ展 ふくよかな魔法」

5月1日、渋谷のBunkamuraで映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」
を見た後は、同じ建物内で開催中の展覧会、「ボテロ展 ふくよかな魔法」へ。

会場に入ってすぐのところに、のちのボテロさんの作品とは明らかに違う雰囲気の「泣く女」という作品が。

ボテロさんは1932年生まれなので、1949年の作品、ということはボテロさんが17歳くらいの時の作品。

「ここから様々な描き方を学んだり試したりしながら、あの独特の作品のスタイルを作り上げていったのか」
と思うと、感慨深いものが。

そして、前回ご紹介した映画でも触れられていたのですが、ボテロさんの作品があの丸々としたフォルムを特徴とするようになったのには、あるきっかけがあったのです。

1956年(ボテロさんが24歳頃)のある日、彼がアトリエでマンドリンの絵を
描いていた時のこと。

丸々としたマンドリンを大きく描き、お腹の開口部をわざと小さく描いたところ、まるでマンドリンが膨れ上がって爆発したように感じ、
「何か大事なことが起こった」
と直感したのだとか。

今回の展示の中にもそのエピソードを彷彿とさせるようなマンドリンを描いた「楽器」という作品がありました。

ボテロさんの故郷・コロンビアは果物のおいしい国としても、花の国としても有名な国。

わたしが4年前にコロンビアに行った時には市場で様々な果物を試食させていただいたり、花農場を見学させていただいたりしました。
(その詳細は拙著「コロンビアってどんな国?」をご覧ください。
https://amzn.to/3s4ulkH )

ボテロさんの作品にも
美味しそうなみずみずしい果物や
見ているだけで元気になりそうな
ビタミンカラーの花々も
描かれています。

でも、それだけではなく、「ラ・ビオレンシア(暴力)」の時代、
と言われた時代に起こった事件を題材にした作品も展示されており、彼が美術だけに目を向けているのではなく、自国の負の部分や社会の問題にも向き合う生き方をしていることを感じます。

そして、レオナルド・ダビンチやファン・エイクなどの巨匠の有名な作品をボテロさんのスタイルで描いた作品も。
(そのいくつかは撮影可能でした)

わたしはコロンビアのボテロ美術館でレオナルド・ダビンチの
「モナ・リザ」をほぼオリジナルの絵と同じ姿勢で描いたボテロさんの作品を見て
「なんて可愛らしいんだろう」
と思ったものでした。

今回の展覧会に来ていたのはその作品ではなく、
「モナ・リザの横顔」
という作品。

展覧会ちらしにも使われているので、ご覧になった方も多いかもしれません。

「鮮やで、瑞々しい。」

そう思ってふと見ると、この作品、2020年のもの。

つまり、ボテロさんが88歳くらいで描いた、かなり最近の作品なのです。

「若い頃の作品じゃなかったんだ!」
とびっくりして、二度見。

そのほかにも、2019年に(87歳頃)鉛筆と水彩で描いた一連の作品もあるのですが、カーニバルの仮面までふっくらと可愛らしかったり、丸々とした体を寄せ合って踊るカップルなど、やさしさ、色っぽさ、ユーモアも伝わる作品からは枯れることのない現役の画家の力が伝わって来ました。

わたしが行った日は展覧会開始から日が浅く、しかも冷たい雨の日でもあったので、日曜日にも関わらず美術館はあまり混んでいませんでした。
ゆっくり見てから通路を戻り、もう一度最初からじっくりと作品を堪能。

そして、会場を出た後、最後のお楽しみに。

それは、地下一階に設置された彫刻、「小さな鳥」でした。

実はこの作品、今回コロンビアからやってきたわけでではなく、広島市現代美術館の所蔵作品なのです。

わたしは大阪の御堂筋でボテロさんの「踊り子」という作品を見たことがありますが、日本にも数箇所、ボテロさんの作品があります。

広島の「小さな鳥」は、今回の展覧会のためにやって来てくれたのでした。

ちなみに、彼はこの「小さな鳥」とよく似た作品を(全く同一ではなく、サイズなども違いますが)いくつも作っています。

山梨県立美術館にも「リトル・バード」という名前の同様の作品がありますし、
ボテロさんの映画は彼の故郷、メデジンのサン・アントニオ広場にある2つの鳥の銅像にも触れていました。

もともと、ここにあった鳥の銅像は一つでした。

でも、1995年にここで爆破テロが起こり、この像に爆弾が仕掛けられて、23人の方が亡くなったのです。

鳥の像も被害を受け、お腹に穴が空いた痛々しい状態になりましたが、事件が風化することのないよう、彼はあえて傷ついた鳥の像をそのままにして、その隣に新たな鳥の像を設置したのです。

つまり、暴力によって生まれた傷ついた鳥と平和を祈って作られた鳥が隣り合って佇んでいるのです。

Bunkamuraに佇む鳥の像を見ながら、世界中の人たちが平和な状態で
美術に触れられますように、と願わずにはいられませんでした。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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