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【大学受験】医師が再考する"医学部の偏差値は関係ない"のウソホント

「医者になるなら、医学部はどこでも一緒ではないのか?」

これは人によっては難しい質問で、しかも医学部生、医学部卒業時、研修医、専門医、教授クラスなど立場によっておそらく考えも変化していくでしょう。

さて。書籍でも、Twitterでも、何らかの講演会でも……今の時代、「偏差値が高い医学部へ行け!」などと言う人は多くありません。

というか、そう思っていても大きな声では言えません。Twitterでツイートしようものなら、医療関係者から袋叩きにされるでしょう。なので、普通に生きていれば「医学部の偏差値は高いほうがいい」と声高に叫ぶ人には出会えません。

今回は、医者になるにあたって出身大学(のレベル)がどういう存在なのか、現在の私なりの考えを書いていこうと思います。例のごとく長いです。

なお、学費についての議論は方向性が異なるので今回はいたしません。

まず実際を。

下記のようなアンケート結果があります。

「母校出身ということで医師になってからのメリットはありますか?」

という質問に、医師5007人が回答したネットアンケートでは、

「ある」29.4%
「ない」70.6%

という結果だったようです。また、「ある」と答えた人の割合が最多なのは慶應大学の70.00%、最低は秋田大学の8.57%だったようです。かなりの差!

この時点ですでに、「医学部はどこでも一緒ですか?」という質問は、医者の中でもかなり議論が割れる問題だろうということが想像できますね!

実務上、あまり関係ない(初期研修)

いきなり結論ですが、普通に臨床医として仕事をしていく分には出身大学の偏差値はほとんど関係ありません。理由を説明します。

医学部から医者へのステップは、下記の図のようになっています。太い矢印(学生→国家試験合格→初期研修→専門研修→…)がマジョリティの進路です。

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ここでポイントなのが、希望の診療科に限らずいろいろな科をローテーションして臨床医としての基本的な技術と知識を学ぶ「初期研修」には、あまり出身大学が関係ないことです(マッチングというシステムで決まるのですが、それについては割愛します)。

一般的な病院はもちろん、大学病院でも同じです。例えば、東京大学病院や慶應義塾大学病院であっても、初期研修医の多くは他大学出身です。ドラマのような排他的な学閥主義は、初期研修ではもはやほぼ見かけません。

つまり端的に言うと、医者としてのトレーニングをスタートする環境選びに、出身大学はあまり影響しません。全国の医学生がミックスされる感じです。

なので、「出身大学よりも初期研修をどう過ごすかが大事!」という医師は多いですし、基本的には私もそう思います。何事も最初の一歩が肝心ですね。

[補足] 実は大学には「関連病院」という概念があり、関連病院に就職しようとすると面接などで少しだけ大学関係者が有利です。例えば川崎市立川崎病院という病院がありますが、慶應義塾大学の関連病院です。なので、初期研修医の半分近くが慶應出身なこともあります。とはいえ、偏差値などほぼ関係なく、関連大学出身であっても落選することはあります。出身大学の影響は大きくないといっていいでしょう。

実務上、あまり関係ない(専門研修から)

さて、初期研修の病院選びがほぼ全国ミックスであることは述べましたが、実はその後の専門研修(正確には専攻医)でもそれが続きます。

初期研修で医師としての基本的なトレーニングを積んだあと、多くの人は希望の科を選びます。消化器内科、呼吸器外科、皮膚科、放射線科、……よくある「〇〇科」というヤツです。

とはいえ、その科についてはまだまだ素人。なので、次は「○○科専門医」などの資格を取得しに行く人が多いです。ここでも病院選びをします。初期研修とシステムは違うものの、やはり大規模な学閥差別はもはや残っていません。出身大学と異なる大学で専門科トレーニングしようという方も多いです。

確かに、「教授になる」などが目標の場合は、まだ出身大学のほうが有利とされる場合もあります。ですが最近ではきちんと実績があれば関係ないケースも増えています。少なくとも、多くの普通に臨床医をやっていきたい人にとっては出身大学は実務上そこまで関係なくなっています。

結局、出身大学よりも卒後のトレーニングが重要ということですね。

[補足1] もちろん、細かい部分では出身大学が影響することは多いです。関連病院に修飾したい場合なども含めて。ですがあくまでそれは施設の連携の話であり、医学部の偏差値が高いほうがいい直接の理由には弱いです。

[補足2] 東京や神奈川、埼玉に関連病院が多いのは東京大学や慶應義塾大学が代表格です。大学でトレーニングしながらも東京近辺で働きたい場合はこれらの病院で働くのがいい場合もあります。ですが、前述してきたように、出身大学は関係なくこれらの大学に勤務することが今では可能です。

医学部のカラーは非常に多彩

ここまでは無難に、「普通の臨床医としてやっていく場合、実務上は出身大学の影響が少ない」ことを述べてきました。同意する医療者の方も少なくないかと思われます。

ですが一方で、大学に目を向けてみると、医学部のカラーは非常に多様です。入試で必要とする能力がピンキリなので当然といえば当然ですが、学力だけの話ではありません。医学部生が知っておくべき疾患や、医師国家試験の試験範囲は定められていますが、一方でカリキュラムや教育方針は大学ごとに全然違うのも事実です。

【留年率】
留年率が高い、つまりストレートに6年で卒業しにくい大学は、やはり避けたいでしょう。
【部活(医学部体育会)の割合】
大学でスポーツなどに力を入れたい人もいれば、「ほぼ全員が運動部!」みたいな雰囲気が嫌な人もいるでしょう。
【研究する学生の割合】
学生のうちから研究して論文が書きたい、というような人は、そういう人が"浮かない"大学がオススメです。
【講義の出席確認】
ICカードで授業の出席を管理されたいか、自己責任のもとで授業の出席がゆるい方がいいかといったことですね。
【授業の深さ】
授業は国家試験対策に特化していたほうがいいか、授業で最先端の研究内容などを扱うか。特に基礎医学で顕著な差がある印象です。
【研究室配属】
カリキュラムの一環として、学生全員が何らかの基礎研究に一定期間触れるような大学もあります。
【論文に触れるか】
学部生のうちから実習やレポートで英語の論文に触れることになるか、そういったものに一切触れないか。
【病院実習】
ポリクリやクリクラと呼ばれる病院実習ですが、その深さやスタンス、期間の長さも大学によって違います。国試のために6年生の春先に実習を終える大学もあります。
【卒業試験の大変さ】
国家試験合格率を高めるために、卒業試験を厳しくして優秀な学生しか卒業させないような大学もあります。余談ですが慶應医学部には卒試がないことで有名です。
【海外留学の機会】
海外留学する学生がどれくらいいるか、または希望者が留学できる環境かどうかは重要な人には重要でしょう。カリキュラムで短期留学できる大学もありますね。
【忙しさ】
バイトができるか、課外活動や好きな勉強ができるか。講義や実習の大変さとも関連しますが、勉強漬けになるかどうかも医学部によって違ってきます(意外と偏差値と関係ない)。
【医師国家試験の合格率】
高いほうがいいですが、留年させて水増ししていないかは見どころです。出願者が異常に少ない場合は要注意ですね。
【大学が学生に何を望むか】
もちろん学生の自由ですが、ポリシーとして。社会のリーダーになることでしょうか、地域医療の担い手でしょうか。
【進路の多様性】
臨床医にならない人の割合はどれくらいでしょうか。研究に進む人は?起業する人は?非医療職につく人は?

パッと挙げてみただけで学部学生の間でさえ上記くらいの項目が大学ごとに少しずつ(場合によっては大きく)異なります。全てを受験生が把握するのは難しいですが、医学部のカラーは大学によってかなり異なってくることは知っておいたほうがいいでしょう。

高偏差値の医学部を目指したほうがいい人

以上のことから、私は「医学部選びは卒後の仕事よりも、在学中の環境のために重要」だと思っています。
そこで私が考える、偏差値が高い方が向いているような人は以下です。

・周囲の学力がハイレベルな方が良い人("面白い"の一致)
・医学の勉強が好きな人(学問しに来ている人が多い)
・在学中から研究して論文など書きたい人(それで浮かない)
・学歴を気にする人(自己満足のため)
・多様な進路を考えたい人(臨床至上主義でない)

別に、大学の偏差値なんて関係なく研究はできます。でも、研究すると変人扱いされる大学よりは、研究室に出入りする学生が多いほうがいいでしょう。刺激もあるでしょうし。

また、高校時代に科学オリンピックに出ていたり、卓越したプログラミングスキルがあるといったような人、「大学は学問するところ」のような志向の方は、似た価値観の人が多いほうが楽しいでしょう。

あと、別に医者になるつもりはなく起業や就職も考えている人も、高偏差値医学部のほうがそういった多様性はあります。全員が臨床医になって当然、という空気はある意味では多様性に欠けますね。

まとめ

冒頭のアンケートでも紹介したように、普通の臨床医としてやっていく実務上は、そこまで出身大学の影響はかつてほど大きくはないと私は考えます。初期研修やその後も含めて、自由度はかなり高いです。

ですが、「6年間をどのようなクラスメイトと環境で過ごしたいか」については、真剣に考えたほうがいいでしょう。そのため、結果的に行きたい医学部が高偏差値帯になるのであれば、それも悪くないと思います。




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