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なぜゲーム学習の研究を始めたのか 前編(経験学習との出会い)

はじめに

ときどき「なぜゲーム学習研究(なんていうよくわからないこと)を始めたのか」ということをご質問いただきます。「ゲームが好きだった」ということももちろんありますが、なぜ私がゲームではなく学習よりの立ち位置でゲーム学習分野の研究をしているのか…というのには理由があり、今日はその話を書いていこうかなと思います。実はこんな記事に需要があるのかなと思い、しばらく下書きにしていたのですが、先日聞いた京大の宮野公樹さんの講演に「具体的な研究の話よりも、なぜその研究を始めたのかという話の方が大抵面白い」というくだりがでてきましたので、勇気をいただき公開しました。

塾講師時代の驚き

私の研究に関する原体験は、大学時代にアルバイトをしていた個別指導塾の講師経験にあります。講師を始めた当初は自分がこれまでに受けてきた教育(主に受験勉強ですね)に基づいた自分の指導に特に違和感を持つこともなく、テキストを使って受験のための知識を教えていました。先日の学習観の記事と関連させると、「知識重視の学習観」を持っていたといえるかもしれません。余談ですが、この頃に大学の授業でインストラクショナルデザインに出会い、自分の授業で実践することで理論に基づいた授業設計の大切さを学びました。

たしか私が大学3,4年生頃、ある日の塾での授業が終わったときのことです。中学生の生徒と雑談をしていた時に、文脈はよく覚えていないのですが、その生徒は「先生、日本とアメリカが戦争したことがあるというのは本当ですか?」というようなことを尋ねました。この生徒は成績が良く、社会科のテストで「太平洋戦争で日本と戦争していた相手国は?」と問われれば、間違いなく正答できます。

その時、「あぁ、授業で教えた知識というのは学校(テスト)で使うものでしかなく、この生徒の日常とは全く関係ないものなんだな」と大きな衝撃を受けました。(このあたりは「学校知」とか「真正な学習」などの用語と関係ありますので、ご興味のある方は調べてみてください。)

経験学習との出会い

その後、なんとなくモヤモヤと「学校知にならずに生徒の日常に根ざした学習」を行うにはどうしたらいいんだろうか…ということを考えていたときに「経験学習」という概念に出会いました。

※これも余談ですが、大学4年生当時の私はとくに何を研究したいということがあったわけではなく、「まだ学問をやりきった気がしないので就職したくない」という理由で「進学することだけ」を決めて院試の勉強中でした。今から考えれば、進学してきてほしくないタイプの学生ランキングの上位に入りそうですね。中原淳先生にはその節は大変ご迷惑をおかけしました。

経験学習とは「プラグマティズム」という思想を背景にジョン・デューイという研究者が1900年頃に提唱した概念です。これを詳しく解説すると一つの本になってしまいますので(デューイ研究者の方に殴られるのを覚悟で)むりやりに一言でまとめると、デューイは日常生活から切り離された学習活動を批判し、「経験(環境に積極的に働きかけること)からの学習とその内省(リフレクション)を重要視しよう」ということを提唱しました。つまり、私が考えていたことというのはデューイが100年以上前に通った道だったということですね。再び余談ですが、「既にそれデューイが考えていたのね問題」というのは教育研究者あるあるだと思います。

経験学習では教師の役割として、「次につながる良い経験」をさせることで、「経験の連続性」を生み出すことをあげています。つまり、学習者の経験と内省をデザインをしてあげることが、重要ということになります。

(直接)経験学習の限界

なるほど、「日常に根ざした理解が生まれるようにするためには学習者の経験と内省をデザインしてあげればよいのか」というところには到達しました。しかし、デューイの理論や実践は基本的には「直接経験して学ぶ」ということを想定しています。デューイが生きていた時代から比べると現代社会はより一層複雑になり、「直接経験して学ぶ」ことが出来なかったり、「経験していても、その影響の大きさを体験することはできない」ことが多く存在します。

例えば、環境問題について学びたいとき、「海岸を清掃して綺麗になった」という経験は直接することはできますが、「環境問題が悪化するとどんな問題が地球環境に起きるのか」ということを直接体験して学ぶことは困難です。今日は書かないですがこの辺りが私の修士・博士での研究テーマです。

終わりに(次回予告)

長くなってきたので、続きは次回に持ち越したいと思いますが、このような問題意識のもとで「直接経験して学べないけど重要なこと」を経験的に学ぶにはどうしたらいいんだろうということを考えていたときに出会ったのが「ゲーム学習」でした。

次回は「ゲーム学習」でなぜこのような問題を解決できると思ったのか…というところを書いていければと思います。あまり日を開けないで公開したいと思いますので、よろしければ次回もお読みください。(04/04に後編を公開しました)

参考文献


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