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学習観と教育・学習用のゲーム

はじめに

前回のnoteではゲームのルールやメカニクスに対する知識や理解が乏しい方が教育・学習目的のゲームを開発する際に「○○すごろく」を作りがち…という記事を書きました。今回はゲームにある程度詳しいが教育や学習を専門としない方が教育・学習目的のゲームを開発する際に遊〇王やポ〇モンカードのような対戦型の(トレーディング)カードゲームが多く作られる理由について、「学習観」という観点で考えて見たいと思います。(ちなみにゲームに詳しくない方が、○○カルタを作るのも同じ理由です。)

学習観とは

学習観とは読んで字のごとく「学習に対する考え方や価値観」のことです。
人生観、結婚観などと同じ意味の「観」ですね。学習観はたとえば、「何かを学ぶ際に最も大切なのは、○○である」とか、「学習とは、○○である」という文章の穴埋めに何を入れるかといったことで明らかにすることが出来ます。良かったら皆さんも試しに埋めてみてください。

私は大学生に上記の質問の答えを書いて貰うことがあるのですが、(特に難関大学の学生には)先ほどの文章の○○に「知識を得ること」とか、「繰り返して頭に定着させる」というような内容を書く方がそれなりの割合います。つまりこれらの方々は、学習においては、「知識を身につけることが重要である」という知識重視の学習観を持っていることになります。

ちなみにですが、他の学習観としては、「経験をして、そこから学ぶことが重要である」という経験学習的な学習観、「みんなで話し合あったり、協力しながら学ぶことが重要である」という協調学習的な学習観など様々なものがあります。なお、人生観と一緒で学習観は何が正しい、間違っているというようなものでもありません。またある人が1つの学習観しか持っていないわけでもなく、場面に応じて使い分けることもできます。

対戦型のカードゲームが作られるワケ

察しの良い方ならもう分かったかと思いますが、対戦型の(トレーディング)カードゲーム(や学習カルタ)を作る方はおそらく「知識重視の学習観」を持っています。

そして、
・○○(教科名など)の知識を暗記するのは辛いけど、ポ〇モン(カード)をやっているとポ〇モンの名前や技は楽しみながら自然に覚えることができる。
→ポ〇モン(カード)のような形式にして対戦するようにすれば、何度も遊ぶ中で自然と○○について覚えることが出来るに違いない(ないし、テーマについて親しみを覚えて暗記に楽しく取り組むことができるようになるに違いない)
という発想でこのようなゲームを構想する…と思われます。

ふと思い出したのですが、私も大学院に入ったころに、教育哲学の流れを覚えるのが大変で、「教育哲学の偉人を対戦させるカードゲーム」を作ろうとしました。あの頃は、知識重視の学習観が強かったのかもしれません。(当然のように途中でぽしゃりました)

ゲーム学習に向く学習・向かない学習

先ほど述べたように、学習観自体には特に正解も間違いもないのですが、ゲーム学習にした際に向く学習・不向な学習というものは間違いなくあります。ゲーム学習にあまり向かないことはいくつかありますが、今回話題にしている「知識の獲得」もその1つです。

例えば、地理を学ぶために「都市を擬人化したキャラクターがいて、産業が技名として書いてある」対戦形式のゲームがあったとします。そのゲームを1時間遊んだときと、用語集を1時間学習したときに知識獲得の学習効果が高いのはどちらでしょうか?ゲームにはルールを覚えたり、ストーリーがあったりと様々な時間がかかりますので、おそらくは後者でしょう。(何も調べず適当に書いていますが、もしこのようなゲームがあったらそれを揶揄する意図は一切ありません。)

おそらく、こう書くと「用語集を見る気もしないようなモチベーションの低い学習者に向けてこのようなゲームはあるんだ!」という反論の声があるでしょう。ただ考えていただきたいのは、「地理に対するモチベーションを上げる」ということだけを意図した場合に、このゲームの形式は果たして最適でしょうか?

モチベーションを上げて自主的な地理学習につなげるゲームデザインはもっと色々と考えられると思われますし、用語集での学習自体をゲーム化する(ゲーミフィケーションする)といった選択肢もあるかもしれません。

※実際、ゲーム学習研究のトレンドも「単純な知識取得」や「モチベーションアップ」よりも、「内容に関する深い理解」や「意識の変容」などの方向性が多くなっています。

まとめ

・ある人が作る教育・学習用ゲームには、その人が持つ「学習観」が強く反映される

・単純な知識獲得はあまりゲーム学習には向かない

・ゲームのルールを知らないと「すごろく」しか作れないのと同様に、学習観も「知識重視」以外の学習観をしらないと作れるゲームの幅が限られてくる

ということで、非常に大変なのですが、教育・学習用のゲームを作られる方は、ゲームと学習の両輪について勉強していただくとより良く、また多様なゲームが作れるのではないか、というお話でした。

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