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まちづくりの"住民参加"を問い直す

今週の「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」の動画コンテンツは、ミミクリデザインのリサーチャー東南裕美による書籍『ワークショップ―住民主体のまちづくりへの方法論』(木下勇 2007)の解説でした。

東南は、地域活性化を専門としており、東京大学大学院 情報学環 特任研究員を兼任しながら、まちづくりのプロセス研究や観光コンセプト作りなどのプロジェクトに取り組んでいます。

動画で紹介した本書は、コミュニティデザインの山崎亮さんも以下のように絶賛している書籍で、まちづくりにおけるワークショップの理論と実践を抑える上で、教科書的な一冊となっています。

木下勇さんの『ワークショップ』という本は素晴らしい。建築やランドスケープデザインからまちづくりやコミュニティデザインまで、理論的な話や実践的な話を交えて解説してある。レヴィンやフレイレについても触れられている。アメリカや日本におけるまちづくりの歴史も概説されていて、いま僕たちが取り組んでいることがどんな流れの末端に位置するのかがよく分かる。当分、僕のバイブルになりそうな本だ。(山崎亮さんfacebookより)

本書の良いところは、まちづくりにおけるワークショップの良い面だけでなく、弊害やリスクについても批判的に指摘されている点です。

住民参加は確かにあらゆる場面で進めねばならないが、しかし住民参加=ワークショップなのか?さもワークショップを行えば住民参加、住民参加を進めるにはワークショップを行えばよい、というような思い込みで進めている例は少なくないし、ワークショップをやれば合意をとれると思うような誤解が蔓延している。(p.53)

これについては非常に共感するところで、ミミクリデザインでもまちづくりのワークショッププロジェクトに取り組む中で、"住民参加"については思うところがいくつかあります。以下にメモ程度に書いておきます。

1. 参加者層が偏っている

住民参加のまちづくりワークショップの参加者は、多くの場合、行政によって公募で集められます。そこで集められた数十名の参加者で話し合いを進めることで、新たなプランを検討したり、すでにある施策について合意を形成したりするわけです。

当然ですが、ワークショップに参加している"住民"は、実際にその地域で生活している母集団のうち、ごく限られた一部にすぎません。それは構造上、仕方がないことです。

しかしながら、必ずしもワークショップの「広報」に力が入れられているとは限らず、多くの住民にはワークショップの存在そのものがきちんと周知すらされていないという場合もあります。これまで見てきた例では、申し込みの方法が「FAX」しかなく、結果として参加者層の大半が高齢者になっていたケースもありました。またある地域では、とても問題意識の高い地元に愛着のある大学生が、「どうすれば自分の地域の話し合いに参加できるのか、まったく情報が入ってこない」と嘆いていたのを耳にしたこともあります。

多様な住民の意見を反映させ、合意を形成するためは、広報段階から1人でも多くの住民にワークショップの存在と参加意義を周知し、多様な参加者を募り工夫をしなければ、意味がないように思います。

2. 免罪符として使われがち

もう一つ感じる残念な点は、行政側が「ワークショップに期待していない」という場合がある点です。施設を建てるにせよ、公共事業を進めるにせよ、住民参加はある種の義務ですから、「一応、ちゃんとワークショップをやって、"合意"を形成しましたよ」という結果が欲しいだけで、ワークショップの中で、行政側が思いもよらなかったアイデアや、参加者の創造的な学びの経験が求められているわけではない、という場合もあるようです。

ひどい場合だと、すでに結論としての「オチ」があらかじめ用意されている場合もあると聞きます。設計図をトップダウン的に実行したいだけなのであれば、そもそものワークショップの思想に反します。

なぜ公共事業を"住民参加"で進めなければならないのか、その意味を考えた上で、民主的な話し合いの場を、創造性に昇華させるためのファシリテーションのあり方を十分に考えなければなりません。

本書は、そんなことについても改めて考えるきっかけとなりました。


ミミクリデザインが運営する「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では、まちづくりや地域活性化に関する知見も定期的に紹介しています。よければご参加ください。


また、まちづくりにおけるワークショッププロジェクトを意味のある効果的なものにしたいとお考えの行政の担当者の方や、設計者の方は、ミミクリデザインにお気軽にご相談ください。


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