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組織学習の原動力としての企業理念:ミミクリデザインのクレド<葛藤>に込めた想い

組織をマネジメントする上で、自社のアイデンティティを体現した「経営理念」をデザインすることは必要不可欠です。

ミミクリデザインのコーポレートスローガン「創造性の土壌を耕す|Cultivate the Creativity」もまた、経営理念として社内で何度も対話を繰り返してつくりあげたもので、ミッションでもあり、ビジョンでもあり、行動理念でもあるような、シンプルだけれど強力なメッセージとして、気に入っています。

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業務における「行動指針」としての経営理念

ただし、確かな理念を掲げていても、業務において、具体的な場面で、どのようにふるまうべきか、迷うことはあります。そこで多くの企業では、ミッション・ビジョンに加えて、「行動規範」「バリュー」などを定義することによって、経営理念を行動レベルで浸透し、さまざまな場面で迷わなくて済むように組織マネジメントしています。

ちなみに書籍『経営理念浸透のメカニズム』によれば、経営理念とは以下のように広く定義されています。

経営理念の定義:社内外に公表された、経営者および組織体の、明確な信念・価値観・行動規範(『経営理念浸透のメカニズム』より)

また、経営理念を定める具体的な目的として、大きく外部向けの機能(=社会的適応)と内部向けの機能(=企業内統合)に整理しています。

内部向け:企業内統合(従業員の指針として機能させ、動機付ける)
外部向け:社会的適応(存在意義を示し、環境に適合しながら存続する)

ミッションやビジョンのような形式だけでなく、行動規範やバリューなどもまた、内部向けの「企業内統合」を目的とした「経営理念」の表現・展開方法のひとつなのです。

クレド策定を試みるも、思いのほか、苦戦・・・

私たちミミクリデザインもまた、組織が拡大していく中で、前述したスローガンに加えて、メンバーの行動指針となる理念の必要性を感じていました。それはトップダウン的に"行動を統率する"ためではなく、業務レベルで理念を浸透させ、一人ひとりの個性を発揮させながらも組織として大切にしたい価値の軸をぶらさないため。そして組織学習(ルーティンの変化)を起こす原動力となる指針が必要だったからです。

そこで、多くの企業がそうするように、私たちも社内のワークショップを何度も繰り返し、自社の「クレド」の策定に向けて、対話を重ねました。過去のプロジェクトの具体的な場面を振り返りながら「あの時、まさに"創造性の土壌を耕す"を体現できたように思う」「こうした場面で、こういう意思決定ができる企業であり続けたい」といった事例を共有し、大切にしたい価値基盤をすり合わせていきました。

けれども思った以上に「クレド」への落とし込みには苦戦をしました。その背後には、「業務において、どのようにふるまうべきか」を規定してしまうこと自体が、ミミクリデザインらしくないのではないか?という想いが、多くのメンバーの間にあったからです。なかには「クレドを定めるなんて、まるでベンチャー企業みたいじゃないか!」という、天邪鬼的な反発もありました笑。

メタ行動理念としての5つの<葛藤>

そこで、何度も何度も思考を巡らせた結果、私たちの価値観は、AかBかで白黒つけて行動する点ではなく、一見すると両立が難しいAとBのあいだで、悩み、戸惑いながらも、どうにかして両立できないか、あるいは両方を兼ね備えたCが実現できないか、と、ディレンマを受け入れながら試行錯誤し続けるところに、私たちらしさがあるのではないか、と気がついたのです。

そこで、私たちは組織のクレドを<葛藤>として掲げ、以下のステートメントにまとめました。

ミミクリデザインは、「葛藤」を大切にしています。「葛藤」とは、読んで字のごとく、「葛(かずら)と藤(ふじ)がもつれ合って解けない状態」のことです。

プロジェクトというものはとても複雑です。プロジェクトの中には、成果、学習、答え、問い、論理、感情、都合、事情、会社の利益、顧客の幸せ、とにかく様々なものが、ーー葛と藤のようにーー関係し合い、絡み合い、存在しています。

その中で、落としどころに悩むこともあります。ダブルバインドに戸惑うこともあります。ですが、ミミクリデザインはその悩みや戸惑いを歓迎します。悩みや戸惑いの中で「葛藤」すること、それこそがミミクリデザインが大切にしていることだからです。

世界には、白や黒もあれば、グレーもあります。3や4もあれば、3.5もあります。清や濁もあれば、併せ呑むこともあります。焼きそばやパンもあれば、焼きそばパンもあります。このように、世界はそもそも複雑です。だからこそ、あえてその複雑さの中に身を置き葛藤し続けることで見つかるものや生まれるものがたくさんあると思うのです。

複雑さを受け入れ、その中で葛藤し、悩みも戸惑いも乗り越えて、新しい何かを見つけること、新しい何かを生み出すこと、それがミミクリデザインの仕事です。

だから私たちは今日も「葛藤」します。ミミクリデザインは、葛と藤がもつれ合うところにあるからです。

さらに具体的に5つの葛藤を定義し、メタ的な行動の指針としました。いずれも私たちがプロジェクトや業務のなかで対峙するディレンマであり、いずれを尊重するか悩みながらも、両立させようと踏みとどまることが、創造性を発揮させるための鍵になっている要素たちです。

葛藤(1)プロセスとアウトカム
ミミクリデザインは、創造的に課題を解決するファシリテーターとして、クライアントが単独では到達できなかったアウトカムに導くことにコミットしています。しかしながら、私たちは正解を示すコンサルタントではありません。課題を解決するのは、あくまでクライアント自身です。私たちはすべてのプロジェクトがクライアントにとっての主体的な学びの機会であるべきだと考え、アウトカムにこだわりながらも、豊かなプロセスを生み出すことに重きをおいて、プロジェクトに伴走します。
葛藤(2)共感と触発
ミミクリデザインは、クライアントが抱える悩みに寄り添い、同じ課題に共感したパートナーとして、プロジェクトに伴走します。しかしながら、クライアントの課題認識が常に正しいとは考えません。私たちは、クライアント自身も気づいていない課題の切り口を探り、クライアントに揺さぶりをかけながら創造性を触発していきます。
葛藤(3)ラーニングとアンラーニング
ミミクリデザインでは、複雑なプロジェクトを成功させる方法論について、絶えざる研究開発によって体系化し、すべてのメンバーが学び続けています。研究に裏打ちされた学習環境は、組織の熟達を支え、プロジェクトの成功の確実性と再現性を高めています。しかし私たちは同時に、同じ方法を繰り返すことを嫌います。過去の成功には囚われずに、得意パターンをアンラーニング(学習棄却)しながらこれまで取り組んだことのないプロジェクトやアプローチに積極的に挑戦し、新たな"ミミクリデザイン"の可能性を探究し続けています。
葛藤(4)意思決定と判断留保
ミミクリデザインは、日々多くの情報が飛び交うなかで、スピーディに意思決定を下しながら、組織の前進を止めることなくプロジェクトをドライブさせていきます。他方で、チームにおいて「対話(dialogue)」を重ねる時間も重視しています。対話のコツは、早急な判断を下さずに、多様な意味の解釈と、新たな意味の生成を楽しむことです。「物事を決めて前に進める」だけでなく、あえて「立ち止まる時間」を大切にすることが、組織の進化の糧となると信じています。
葛藤(5)ペインフルとプレイフル
変わりたくても変われない人や組織が変化をするとき、多くの場合「痛み」が伴います。ミミクリデザインに持ちかけられる相談の多くもまた、クライアントにとっての痛みを取り除く欲求が起点にあり、私たちはその痛みに真摯に向き合います。しかし同時に、人間が幼少期から持っている「遊び心」もまた、大きな変化の原動力となりえます。どうせ変わるならば、その過程を楽しむこと。また、新たな別の可能性を探索してみる遊び心を持って変化を生み出すことを、私たちは心がけています。

"ファシリテーション"とは、葛藤のハンドリングである

これは、ある一つの方向に「企業内統合」するための企業理念ではなく、コーポレートスローガンである「創造性の土壌を耕す」の実現にトライし続けながらも、自分たち自身の創造性を枯らさないための、組織学習の原動力としての理念です。

人間の学習とは「わかる」ことと「わからない」ことの螺旋的な循環ですから、個人が学び続け、組織がルーティンをアップデートし続けられるためには、<葛藤>に向き合うことを、創造性の源泉として、前向きに捉えられる土壌が不可欠だと考えたのです。

思えば、"ファシリテーション"とは、これら5つの葛藤の緊張関係をハンドリングしながら、人と組織が創造性を発揮するプロセスの手綱を引くことと言い換えられるかもしれません。私たちミミクリデザインは、これからも<葛藤>を行動と学習の源泉としながら、社会の「創造性の土壌を耕す」ことに貢献していきたいと思います。

※ミミクリデザインのクレドステートメントは、株式会社デラシネの山本郁也さんにまとめていただきました。何度も社内の対話に参加していただき、ミミクリデザインの価値観を射抜くことばを紡いでくださり、改めて感謝申し上げます。


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