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言葉を越える、心のこと

前回のnoteで、私はカナダでの企業面接に「勇気が欲しいよ」と騒ぎながら怯えていた。英語で自分のことを正確に語るのは難しい、緊張をすればさらに難しい。

けれどその後数回の実践を経て、私の心持ちは大きく変わった。異国での、かつ非母国語での面接は、ものすごく面白い。恐怖の中に飛び込み、2,3回経験をすればもうこちらのものだ。もちろん緊張はするのだけど、震えるような恐怖心はない、むしろ早く出会いたい、早く聞かせてほしいと思う。


「今、バンクーバーで暮らす人たちにとって重要なことを教えてくれる映画はなんだと思う?」

今日受けた面接で、名前とビザの期限、働ける時間帯などを伝えたあとに問われたのがこれだった。一般的には「簡単に自己紹介をお願いします」と言われるはずなのだけど、全く予想だにしていない問いだ。


──なんだって?

その企業は、映画とはなんの関わりもない。クリエイティブ業界ですらない。なんて難しい、なんて面白い問いだろう。そして瞬時に思う、私の目の前にいるオーナーは、人の“肩書き”にはなんの興味もないのだと。

私はそれが、とても嬉しかった。心の中身を、思考を、価値観を、一番最初に教えて欲しいと言われたことが。

真っ先に浮かんだ私の答えは、『Pay it forward』だ。

noteにも何度も登場している、人生に大きな影響を与えてくれた映画のひとつ。答えれば当然理由を聞かれるだろう。バンクーバーの社会と結びつけてこの映画を英語で語った経験がない。うまく伝えられるとも思わない、当たり前に難しい。

英語で説明する簡単さを優先するのであれば、選ぶ映画は変わる。だけど、下手でもいいから嘘偽りなく私の考えを語りたい。「あなた自身を知りたいんだよ」と感じる問いに、一番誠実だと思う姿勢で応えたい。


ということで、私は『Pay it forward』と答えた。
今、バンクーバーの治安は悪化している。バスに乗れば優先席に座っている若者に怒鳴りつける大人がいたり(優先する人が誰もいない状況なのに)、ポイ捨てされているゴミが多かったり、歩きタバコやマリファナをする人たちも多い。

そういう現場を日常的に目にするようになって、私は改めて日本人の他者への配慮や思いやりが、どれだけ世界的に尊いものかを痛感している。


レジの前でメニューを選んだら後ろの人に迷惑がかかるから、決めてから列に並ぼうとか
濡れた傘が人に当たったら服を汚してしまうから、電車内では自分の膝に挟んで座るとか
店員さんに手間がかからないように、汚れた食器やグラスを手前にまとめて席を立つとか

そういった毎日の、ほんの少しの一人ひとりの思いやりが、誰かへの「ありがとう」の思いが積み重なって、日本という社会が成り立っている。

例え、誰が見ていなくても。誰に褒められることがなくても。
その行いは、間違いなく社会を優しくしているのだ。日本で生まれ、日本社会の中で育ち、誰かへの配慮を「当たり前」のこととして教えられて育ってきた。日本人であることを、私は誇りに思う。大袈裟ではなく、本当にそう思う。

日本人の優しさは、世界的に見ればまったく「当たり前」のレベルではないのだ。だけどそれを当たり前のレベルとして、どこの国でも生きていこうと思う。

誰かへの思いが毎日少しずつ欠けていって、それが積み重なった結果、バンクーバーの治安は数年間でずいぶん淀んでしまった。少なくとも、私が最初にこの街を訪れた7年前に比べると。

社会を良くしていくことは、簡単ではないけれど
「誰かからもらった善行を、自分が次に渡していく」ということの積み重ねで、必ず少しずつ優しくなっていくものだと信じている。私たち一人ひとりが、社会をつくっているのだから。


……という話を、一生懸命私はオーナーに伝えてみた。


文法も色々間違えただろうし、ネイティブのような速さで伝えられたわけでもない。けれど彼は何度も深く頷きながら私の話に耳を傾け、「話してくれてありがとう」と大きな手で握手をしてくれた。

書類選考の時点で、10人のうち1人にしか面接の連絡をしていないらしい。実は私は日本のメディアでこの会社について記事を書いたことがあって、日本を離れる前から会社の哲学や仕事への姿勢に深くリスペクトをしていた。履歴書と一緒に英訳した記事を添付し、彼はその記事を読んで私と話したいと呼んでくれていた。


「毎日鍛錬をすれば、技術は3ヶ月である程度習得できる。でも心が同じ方向を向いていなければ、心で僕らが分かり合えなければ、ずっと共に進んでいくことは出来ない」

なぜ映画について聞いたのかを尋ねると、彼はこう答えた。
面接を受けることは、一種の取材だ。

企業によって、形式も問いも全く異なる。
何を人に求めているか、他者の時間をどう捉えているか、社会的価値とは何か。私が受ける面接の多くは、業務的なことは数分で終わり、残りの時間はほとんど全て価値観の交換に充てられている。

多くの問いが変化球すぎて準備のしようがないのだけど、ものすごく面白い。そして社会や仕事に対して自分自身が何を思い、何を考えているかを語ることは完全に得意分野だと言える。noteを書いていてよかった。書くことで覚えておけることは多い。

不意に飛んできた変化球が、かつてnoteに書いたことや、原稿執筆中に考えて答えを出したことと重なっていたりする。

私を見つけてくれる企業は、私の心にやっぱり近しい。異国の面接はすごく自由だ。髪型も服装も基本的に指定はない。これまでの職歴など聞かれないこともある。こんなにもフレキシブで面白いものだとは思わなかった。


世界、おもしろ〜〜〜〜!!

と、面接を終えるたびに思ってゾクゾクする。
嬉しい。合否に限らず、こういう話を共にできることが嬉しい。出会えることが嬉しい。そもそも面接という名目で一企業のトップと異国で出会い、深く話し合えることは、本当にありがたいなと思う。


言葉を越えて、心のことを見てくれる人がこんなにもいる。
私もそういう人でありたい。愛には愛で。心には心で。
誠実に頑張っていこうじゃないか!



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