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オンライン通訳をやってみた話(前編)

通訳業務はもうないだろう。これで終わりかもしれない

コロナ禍でばったりイタリアから人が来なくなった。仕事がとまった。
何とか2月の時点ではイタリア人来日セミナーはやれていたが、既に秋に決まっていた通訳は6月の時点でキャンセルになった。


お金も時間も費やしてきたイタリア語とワイン。

ワインは販売の場があるからまだよいが、何よりも大切にしてきたイタリア語。今でも週に一度授業をとりブラッシュアップしているイタリア語はもう何にも役にたたない。


ー絶望感ー


通訳の仕事はゼロでもワインの仕事があるからと自分を慰めている日々の中、夏の終わりに「オンラインセミナー」通訳をやってくれないかと依頼を受けた。


「オンライン通訳」


オンラインはすでにワイン講師をしたり、ヨガやバレエ、講演会に参加したり、コロナ禍で自粛期間中にすっかり定着し、個人的にはとても便利で夢中になっているもののひとつ。


でも「通訳」って?可能なの?


依頼を受けた時は、仕事に飢えていた。出来る出来ないを考える間もなく、「やります」と二つ返事でお引き受けした。でも、だんだんと本番が迫ってくると不安がよぎる。


対面通訳ならば、聞き取りづらかったり、内容が専門的過ぎてわからなかった場合はそっと聞き返すことができる。でも画面越しではそれは無理だろう。大きな声で参加者全員にきこえるように質問することになる。プロとしてすこし恥ずかしい。


不安を上げてもキリがないので、とりあえず、本番に向けて準備する。
今回のセミナーは輸入業者さんがオーガナイズしたもので。ある特定のワインを買ってくれた方のみが参加できるワインセミナーだ。

聞き手は一般消費者で、日頃からワインに親しんでいる人、ワインラヴァ―の方々。
そして、イタリアと繋いで紹介する生産者は2生産者。一か所は白ワイン、もう一か所は赤ワインをつくっている。


この二つの生産者はオーガナイザーであるイタリアワイン専門の輸入会社、株式会社グランサムさんがどちらも取り扱っている。そして、2つの生産者がお互いにとても仲良いとのことで、同時開催が実現した。


セミナーで取り上げえるワインはどちらもイタリアピエモンテ州のワインだ。イタリアを代表する白ワイン、“ガヴィ”を造る生産者、マルケージ・ディ・ルカ・スピノーラと偉大な赤ワイン“バローロ”を造るテヌータ・ロッカ。


本番当日までにありがたいことに、輸入会社のグランサムさんより事前のお顔合わせ、リハーサルをしようと提案を受ける。


確かに、いきなり本番はむずかしい。Wi-Fiの問題もある。セミナーはウエビナー形式で行われるので、うまく繋がるのか、さらには、どんな内容で2つの生産者を紹介していくのか、セミナーの進行なども画面上のお顔合わせで話し合う必要があった。


グランサムさんにとって、生産者が来日した際のイベントなどは経験ががあっても、画面越しのウエビナー形式のセミナーは初めてで、生産者も私も初めての体験、皆がすべてが手探りの状態。きめ細かな準備が必要だ。


いつも仕事前はとてもナーバスになるのだが、今回は特にオンラインで通訳。全く初の試みである。その不安を消すために、とりあえず、自分自身が参加者になってみるのもいいと思い、ちょうど運よくワインスクールでオンラインドイツワインセミナーが開催されるのを知り参加を決めた。


ドイツとの中継セミナーは想像以上に面白かった。リアルタイムで現地の畑の様子がわかる。いまのブドウの状態、畑をかこむ風景がリアルで見えるのは興味深っかった。写真で見るよりも、今、現在のブドウや土壌の様子がよくわかり、あたかもドイツを旅しているような感覚だった。これがオンラインの良さかもしれない。今まで味わったことのないセミナーだった。音声もきちんと聞こえていて、通訳しにくい感じにも見えなった。

これならば、きっと私も大丈夫。ほんの少しだけ不安が解消された。


いよいよい、画面上のお顔合わせの日がやってきた。
朝からもう一度単語を見直したり、最近リアルではあまり使っていなかったイタリア語に頭の中を切り替える為に、インターネットでイタリアのテレビを見たりした。さらには資料を何度も眺めたりした。とにかく頭をイタリア語とワインの世界で満たしていく。

午後五時。イタリア時間の朝10時。ZOOMにつないでみる。まずは、グランサムの皆さんが映っていて挨拶を交わす。
そして、少しすると、イタリアから生産者のアンドレアさんの顔が画面にうつった。


Buongiorno!! 

いよいよ、私達の冒険が始まった。


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