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幻の公演プログラム ラオ・ハオ ショパン・リサイタル ③


 第18回ショパンコンクール(2021年)ファイナリストとして、多くのファンを魅了した天才少年ラオ・ハオさんの、幻と化した来日公演の、大阪公演用の楽曲解説。
 ③ では、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、3つの華麗なるワルツをご紹介します。


アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ

 この曲は、まず後半のポロネーズの部分から作曲された。管弦楽を伴うピアノ協奏曲として、ショパンが祖国ポーランドを離れる直前の、20才の頃に手がけ、出国先のウィーンにて大方が完成されている。
 イタリア語で「滑らかなアンダンテ」という意味の、ピアノソロによる序奏部分はそれから3年後、落ち着き先のパリで付け足され、ショパン自身のピアノとパリ音楽院管弦楽団によって初演された。

 伴奏オーケストラ抜きの、ピアノソロ版も書かれており、今宵のようにソロのみによる演奏が、今日では主流となっている。

 左手の穏やかなアルペジオに導かれて華麗な装飾と共に歌う右手のソプラノは、優雅で洗練された夜会の雰囲気をたたえているかのよう。

 時は19世紀前半。ところはパリの社交サロン。
 生粋のパリっ子らに交じって、同郷の仲間の姿も多く見える中、ふと、祖国の懐かしいマズルカの旋律がよみがえる。
 果たしてここは故郷なのか?
 意識はパリとワルシャワを行き交い、再びマズルカの回想を経て、静かに揺れ動く雰囲気から一転、高らかに鳴り渡るファンファーレが、否応なしに別の次元へと誘いゆく。
 舞台は王侯貴族の集う祖国の宮廷にて、堂々たるポロネーズにより豪華絢爛な舞踏絵巻が展開される。
 途中、ロマンティックな詩的感情が現れて哀愁を誘い、長いコーダが夢の終わりを惜しむかのごとく続いてゆくが、やがては華やかに幕を閉じる。


3つの華麗なワルツ Op.34

「ショパンのワルツを踊るとしたら、相手は公爵夫人レベルでなければならない」とシューマンに言わしめるほど、ショパンのワルツには洗練された優美さが伴っている。舞踏としての即興的で軽やかなワルツと、鑑賞する為の芸術作品として書かれたものがある。

 出版にあたって「華麗な」と銘打たれた作品34の3曲は、作曲された時期は隔たっており、年代が特定されていないものもある。

ワルツ 第2番 Op.34-1
 亡命から数年を経て、ポーランドから旅に出てきた両親と感涙の再会を果たし、精神も落ち着き充実した時期に作曲されている。
 旅の途上で訪れた居城でレッスンを依頼された伯爵令嬢に、その場で作曲して捧げられた。
 軽快かつ、貴族的な華やかさを持った明るい輪舞曲。

ワルツ 第3番 Op.34-2
 ワルツとしては異例の、レントという遅めのテンポ指示で「華麗な~」のタイトルにもそぐわなそうな物憂げで沈みがちな哀愁の漂う曲想。
 作曲者が出版者の意図に従っただけなのかも知れないし、本人の想いなど決して計り知れないが、原題に含まれる「ブリランテ」の“輝ける”といったニュアンスが、ショパン自身の、在りし日の切ない思い出といった心情などに結びついているとしたら、そうしたタイトルにも納得できるのではなかろうか。

ワルツ 第4番 Op.34-3
 猛スピードでめまぐるしく駆け巡る右手の動きや、装飾音を伴いながら鍵盤を駆け上ったり下りてきたりする飛び跳ねる音型、気まぐれな猫のように随所で速度を緩めたりするところからか、「猫のワルツ」の愛称で親しまれている楽しいワルツ。


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