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幻の公演プログラム ラオ・ハオ ショパン・リサイタル ④


 第18回ショパンコンクール(2021年)ファイナリストとして、多くのファンを魅了した天才少年ラオ・ハオさんの、幻と化した来日公演の、大阪公演用の楽曲解説  ④ は、本公演メインとなる、ソナタ第3番です。


ピアノ・ソナタ 第3番

 祖国ポーランドを出国して14年が経っていた。
 春に父の訃報を知らされ、どん底の精神状態であったショパンの元に、姉のルドヴィカが遥々ポーランドから訪ねてくる。ようやく気力を取り戻したショパンは、ジョルジュ・サンドのノアンの別荘で、久々に大曲に取り組むのだった。
 前作のソナタ第2番でシューマンに指摘された「統一感に欠ける」といった点は見事に改善され、堅牢で安定した構成となっている。

第1楽章 ロ短調
 ショパンの決意表明とも言えそうな、堂々たる緊迫感に満ちた冒頭。調性のめまぐるしい変化や、シンコペーションによるリズムの反復が、第1主題の激しさをより際立たせると共に、続く第2主題の、伸びやかで極めて甘美な世界と効果的な対称を成してゆく。
 展開部は、後期のショパンに見られる複雑な和音の変化の交差が、第1主題を軸に変幻自在に展開される。やがてはこの曲の同主調であるロ長調の第2主題が奏でられ、落ち着いた雰囲気で楽章の終わりへと導かれる。

第2楽章 変ホ長調
 従来のスケルツォらしく即興的で軽快な三部形式。
 軽やかに戯れる右手の音型はあたかも華麗に舞うダンサーのよう。
 中間部のトリオは一転して瞑想的な印象ではあるが、実はこの調の主音であるE♭を基点に、瞬時にして遠隔調(ロ長調)に転調されている。こうしたところにもショパンの天才性が秘められている。
 懐かしい望郷の想いに浸っていたかと思いきや、ふと我に返ったかのごとく、再び軽快なスケルツォに引き戻される。

第3楽章 ロ長調
 深く重厚な序奏に導かれる、ノクターン風の甘美なラルゴの三部形式。
 中間部では、とりとめもない夢の中でまどろむような美しく幻想的な世界が広がりゆく。再び元のテーマが現れる際は、左手が3連符のリズムを伴っており、舟歌風のゆったりした雰囲気が描かれゆく。

第4楽章 ロ短調
 力強い序奏の和音から始まる、情熱的で激情に満ちたロンドによる終楽章。
 3回に渡って出てくる主題は、左手のリズムを明確に変化させ、ヴィルトゥオーゾ的技巧を駆使しながら堂々たる表情を次第に高揚させ、圧倒的な迫力感と共に劇的に終焉を迎える。
 ショパンの内に秘めた砲弾の精神が、ここに集結されていよう。


       米  米  米



 幻の公演は、以上にて終演とさせて頂きます。
 ご来場、誠にありがとうございました。


 さて、現実世界では……
 公演を楽しみにして下さっていたファンの方々の為に、日本演奏家支援協会の丁寧かつ粋な計らいで、大阪公演が予定されていた当日、会場近くのサロンにて、トークイベント&上映会が催されました。
 ニューヨーク滞在中のラオ・ハオさんと師匠のヴィヴィアンさんと生中継でのインタビューや、ショパンコンクールのエピソードなどを語って頂くなど、充実した、素敵な交流会となったそうです♪


 近い将来、ラオ・ハオさん来日の実現を願いつつ……
            
 Precious Planner
 森川 由紀子




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