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【連載エッセイ】踊る!LA紀行④

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04 タップダンサーケビン

連載4回目にして、ようやくダンスについて触れようと思う。
LAでのダンスレッスンは、言わずもがなとても楽しかった。

基本的に言っていることはまったくと言ってもいいほどわからなかったが、ダンスなんて言葉がなくても見よう見まねでやるものだから、レッスンについていけないということはほとんどなかった。周りと同じようにストレッチして、周りと同じように振りを覚えて一緒に踊る。みんなで一緒に踊った後はそこに一体感が生まれ、もはや言語を超えた繋がりを感じるときさえあった。ダンスは国境を超える。それを体感したのだった。

LAのダンスのレッスンは日本に比べてとても優しかった。もちろん、この”優しい”は技術のことではない。レッスンの雰囲気がとても優しかったという意味だ。
日本でレッスンではしばしばこんなことが言われたりする。「〇〇さんってあんまり上手じゃないからレッスン来られるとレベル落ちるよね」と。レッスンのレベルを初心者に合わせた結果、上級者は少し物足りなく感じることに対する不満である。こういうレベルの差を解消するため、初級クラス・初中級クラスとクラス分けされていることも多いのだが、社会人になるとスケジュールの関係で初中級しか受けれないといったこともよくあり、こうした不満が出ることがときどきあった。みんな大人だし基本的に表に出したりしなかったが、やっぱりなんとも言えない空気が流れることもあり、居心地も悪いクラスもあったりした。
また、あるクラスによっては毎週レッスンに行っている人たちが固まってしまい、新参者が行きにくいというクラスもある。ちなみに、私はこれによく直面している。長年ダンスをやっているのでそのクラスのインストラクターのダンサーとは知り合いなものだから、忘れたころにレッスンに行くと、余計に「お前誰だよ」みたいな目で見られていた。まぁ、踊ったらどうでもよくなるので特に気にしてはいないのだが、それでも気持ちがいいものではない。
と、こんな感じで日本のレッスンはときどきギスギスとした空気を感じていた。だけど、LAのレッスンはそれを一切に感じることはなかった。そのお話が表題にある、タップダンサーケビンとのエピソードだ。

ケビンは、毎週金曜日に受けていたタップのレッスンに来ていた人だった。50代ぐらいのダンスを習いに来ている人にしては高齢で、背も大きくて、いつもニコニコとしていた、優しそうな人だった。
日本人の(それもアメリカ人にしたら中学生ぐらいの見た目の)私を見て声をかけてくれた。全然上手に喋れなかったがいつも優しく声をかけてくれて、毎週会うのがとても楽しみだった。
そんなケビンは、正直そこまでダンスは上手ではなかった。振り付けを覚えきれないことはよくあったし、ウォーミングアップの時点でついていけていないときもしばしばあった。だけど、それを一緒に受けていた人は誰も気にしていなかった。ケビンも気にすることなく一所懸命タップを踏んでいたし、みんな気軽に声もかけていた。あぁ、なんて素敵なクラスだろう。楽しそうにタップをしているケビンを見てそう思ったのをよく覚えている。

ほかのレッスンでもそうだった。どんな人が受けていようが関係なかったし、一緒に踊ればハイタッチをしてくれた。「なにこいつ」みたいな目で見られたことはなかったように思う。だから、ほぼ初挑戦のバレエのレッスンなんてできないことだらけだったけど、なにも気にせず受けに行くことができた。なんなら上手な人のバーレッスンを見て盛り上がれたぐらいだった。

きっと英語をきちんと聞き取れなかったこともあっただろうし、趣味の範囲内でしかやっていない人が集まるレッスンに行っていたこともあったから、こうして優しい雰囲気の中ダンスをやれたんだろうとは思っている。だけど、それでも、こうして自分の技術のなさを気にせずにレッスンに行ける環境っていうのは素晴らしいと思った。ダンスってそういうものだよねってダンスの本場でそう思った。

タップのレッスンの最終日、ケビンに今日で最後だと伝えるととても悲しい顔を見せてくれた。また受けに来れるかい?と聞かれわからないと答えると、僕はいつもここにいるからねと言ってくれた。最後に写真も一緒に撮ってくれて、本当に、本当にケビンには感謝している。あのときFacebookでも聞いとけばよかったなと心の底から後悔している。
またLAに行く機会があれば絶対にタップのレッスンを受けに行くと決めている。そして、今度は私からケビンに「覚えている?」と声をかけたい。今度はFacebookも交換してもらおう。そして、また一緒にタップを踊りたい。


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気になる方はぜひご拝読ください◎


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