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私はいつでも旅ができます。 記憶という草原を。 想像という海原を。 表現という大空を。 出会いという町角を。 それは足掻きであり、諦めであり、羨望であり、力であり、希望です。
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地図に小さく名が乗るだけの小さな町に、僕らは滞在していた。
目指す大きな町への経由点で、バスを待つ一晩だけ過ごすつもりだった僕らは、その町の居心地の良さについつい長居をしていた。

その町の人々は、自分たちの風景の中に、とても自然に僕らを受け入れてくれた。
いわゆる観光客向けのレストランは一切なく、その町の人々が普段から使うような、屋台スタイルの露店が並ぶ。その前に、簡素なテーブルと、ひっくり返し

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影の中でこそ、人は本当の灯りを得るのかもしれない。

光の中では、灯火の価値はわからない。

暗い真夜中に目が醒める。

眠っていたはずなのに、心臓の動悸が激しい。
見た夢など憶えていない。

久々に来たか。

そう頭は理解するが、どうにもならない寂しさと虚しさを心は理解しないし、疲れから来ているわけではない眠たさと、手足の先の震えも寒さを、身体は理解しない。

昼に来ても夜に来ても、どうしようも

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風のように、星のように、空のように。

誰かの隣を爽やかに軽やかに吹き抜け、

朝を待つ誰かに静かに降り注ぎ、

誰かに新しい景色を与える。

確かにそこに在る。世界を巡る。
残らずとも,遺さずとも。

僕らがアオトイを発つ日がやってきた。 

あの日、誤解の解けた僕の相棒と彼の兄さんは、棍棒とサスマタを持って初対面の挨拶を交わし、僕と彼は笑い転げた。

その後さらに1週間ほど、僕らはいっしょに過

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同じ時のなかに居て、同じものを視る。
同じ風を感じて、同じあたたかさにふれる。 

そのことがこんなにあたたかいのは、忘れてしまったかつての記憶が、ほんの少し震えるからなんだよ。

風の気持ち良い昼さがり、僕ら2人は昼寝をしていた。

陽の当たる藁のような植物で編んだ床材は、植物特有の温かみがある。その上ふんわりと空気を通しているようで、とても寝心地がいいのだ。

りぃん、という小さな鈴の音。

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僕らは星の数よりもずっとずっと多い分岐の中のひとつにいるに過ぎない。
運命なんかない。偶然と気まぐれの成す業だ。
意味に掬われる命など、ほんのひとにぎり。

願わくは、誰の目にも何の心にも、ほんの少しでもどんな形であっても、光が映ったことだけを、それだけを、祈っている。

辿り着いた町には、誰もいなかった。
廃墟というより骸と呼ぶに相応しい、抜け殻の町並み。生き物は時折見かけるが、人間の気配だけが

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「なあ。2人ともさ、馬、乗ってみない。」

彼の家を訪れて1週間ほど経ったある日、彼が言い出した。 

「馬?」

「そう。おれがいつも乗ってるのと、もう一頭いるだろ。兄さんのなんだけど。乗る練習してみないか。簡単だからさ。」 

「僕はいいけど…」と言いながら君を見る。

「馬は乗ったことないな。川を渡るのに、水牛に乗ったことはあるけど」

「そっちの方がよっぽど大変そうじゃないか…」 

「大

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その日いちにちに自分を合わせて生きる。 

そんな生き方がこの空の下、あると知ることができること。  

旅のいいところって、きっとそういうことだ。

目が醒めた時間に起きる。新しい場所で、新しい朝に迎えられて僕は伸びをする。

時計のない、予定もない、気兼ねもしない。ああ、僕は今旅をしていると感じる瞬間だ。

僕らは宿泊させてもらっているあいだの食材や燃料代など、自分たちが使う分だけでもと彼にお

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僕らにとっては旅の通り道。
彼らにとっては家。
こういう交わりを手にするたびに、僕はその地に記憶を残して行くように思う。
 
旅の友は、僕の生の道標である。

「おれの家さ、隣の家まで50メートルもあるんだ。夜にどれだけ大騒ぎしたって平気なんだ。」

彼の村は、地面を踏んでならしたような土の道が枝分かれして伸び、それを囲うように背の高いチカラシバのような緑の葉が繁って揺れている。先ほどまでのレンガ

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小さな四角い窓ひとつが、僕らと景色の間にある。
 
交わることのない景色は、けれどたしかに僕もここに居るんだと、髪を揺らす風と、寂しいほどに優しい陽の光が教える。
 
僕の行く場所に着くまでは、この景色と遊ぼう。

財布を落とすとトラブルに見舞われた僕らの前に彼は突然現れた。

ぽかんとする僕らをよそに、ポケットからコインを掴み出して店員に渡し、食事を奢ってくれたのだ。

「これで足りるだろ。」

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旅先で困りごとに出会ったら、何も責めずに一度、大きく欠伸をしてみるといい。
 
もしかしたらその出来事は、引き出しからたまに取り出したくなるような、素敵な持ちものになるかもしれないのだから。

目の前には、大きなスープボウルがある。
空っぽになったそれを、僕らはどうしたものかと顔を見合わせて唸っていた。

「せめて食べる前に気が付きたかったなあ…。」

「いや、注文する前に気がつかなきゃ遅いって。

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なんにもしないでいい朝に、空から響く子守唄。
 

音が止むまでは、ほんの少し、このままで。

灰色の朝。
ぼんやりと、ふわふわと、戻ってきた意識の端っこを掴みながら寝返りを打つ。

ほんの少し、頭の隅が痛む。

耳が何やら小さな音を拾うから、静かに耳を澄ませてみる。

ぱら、ぱたらたっ、ぱらん、と、軽い素材の屋根に雨粒のぶつかる音。そのもう少し向こうからは、その音をまとめたようなざあざあという音

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UNKNOWN

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この音楽も、遠い遠いあの星たちへ、時間をかけて届くのかもしれない。彼らの小さな光が、幾星霜も離れた先へ、こうして届いているように。
だとしたら、君の大切な人にも、きっと届くはずなのに。

僕らは大きな川の真ん中に筏を浮かべていた。頭上には砂糖袋をひっくり返したように無数の星が散らばっている。身を寄せ合うようにひっついたり離れたり、夜空の至るところに光の帯や池をつくっていた。

今日は月も見当たらな

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君が変えた世界を、いつか旅するときも来るのかもしれない。
 
いつだって、僕らが旅するのは、誰かが変えてきた世界。
凍らない氷の国も、あたたかな夏の国も。
 
だから、根の無いような目をしないでくれよ。

外から帰ってきた彼女は、もこもこのコートの上に薄く白く雪を羽織っていた。

吹雪く中を歩いてきたのだろう。

「あの吹雪の中を外へ出るだなんて、きみは命知らずだな。」

君が呆れて言う。

「雪

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あの子の吹かせた南風は、僕らの心を暖かく吹き抜けた。

出会うというのはそういうことだ。
出会うとき、心には必ず風が吹く。

今日は昼から吹雪いた。
町の散策を早々に切り上げて、僕らは宿に帰る。
昼食にスープとパン、夜と明日の朝に簡単に済ませられるよう、少しの食材を買い込んできた。

今回の宿は、男女混合の大部屋がいくつかある
、いわゆるドミトリーと呼ばれる形式の部屋だ。

2段ベッドがいくつも並

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