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経営戦略全史

三谷 宏治さんの「経営戦略全史」を読みました。前に買ったのですが完全に積ん読にしておいたのですが、GWという格好のタイミングでチャレンジしました。

結論、かなり面白かったです!

経営戦略の歴史と変遷について興味がある人向けです。経営戦略のグルたちの本は個別で読んできたけど、各々の関係性を理解して、流れを整理したいというニーズにはぴったりの本です。この本を読めば、あの経営理論とこの経営理論は前後でこういう関係なんだなと語れるようになるでしょう。

一方で経営戦略をより深く理解したいという方にとってはとてもライトに思われるかもしれません。(決して浅いというわけではないのですが)

「経営の歴史書」として読んでください。

この本を経営戦略がどのように変化していったのかを整理するリファレンスとして持っておき、気になるところがあったらそこを読む。そして、原著を当たるというのが正しい使い方と思います。400ページ以上の分厚い本ではあるものの、著者の三谷さんが大変工夫され書かれているので心配はいりません。それにこれで、2,772円って安すぎだと思う。

素晴らしい本で、かなり楽しんだので、わたしの独断と偏見に溢れた胸アツポイントを紹介します。

マッキンゼーのバウワーとBCGの戦い

マッキンゼーの成長の立役者バウアーは、経営と組織の問題に取り組むプロフェッショナルファームと自社を定義した。そして、そこでバウアーが見つけ出したサービスは組織コンサルティングだった。マッキンゼーは事業部制の導入支援を主力商品にした。同時にクライアントの組織、プロセス、実績、予算などの効率性を定量的に測定するマニュアル「ジェネラル・サーベイ・アウトライン」を完成させた。経験の浅い新人コンサルタントを戦力化するのに役に立った。

「商品の絞り込み」「作業や答えの標準化」によってマッキンゼーはプロフェッショナルファームが陥りがちな「成長の壁」を超えて大きく飛躍することができた。

コンサルティングのような、知的作業で、労働集約的な仕事なのに、それをスケーラブルにしたというのは、バウワーすげーな!と思うわけです。

そんなマッキンゼーとは違うアプローチをとったのが、BCGです。

BCGは3つの革新を成し遂げました。

BCGは、「時間」「競争」「資源配分」においてCEOに経営戦略ツールを提供し、事業戦略レベルだけではなく企業戦略レベルの悩みに答えたんですね。

1.時間
クラークソン「経験曲線」ゼーコン「持続可能な成長方程式」で将来予測。2.競争
「経験曲線」、ロックリッジ「PPM」で競争力や競争状態を分析。
3.資源配分
「PPM」で事業間の資源配分。

BCGは、アメリカでもっとも優秀な学生を集めて、その中でさらに優秀なクラークソン、ゼーコン、ロックリッジといった知性と個性のぶつかり合いの中から、これらのツールを生み出したのがすごい。BCGは組織戦とロジックでコンサル業界を切り開いていったといえるでしょう。

ゼロックスの凄さ

私が良いとおもったのは、ゼロックスは複写機を独占していた、というところではなく、TQMとベンチマーキングの部分です。

TQM
経営戦略から品質目標、顧客満足度目標まで落とし込む。
ベンチマーキング
他部署、他企業のベスト・プラクティスから目標やプロセスを学ぶ。

いうなら、ベンチマーキングは、TTP(てっていてきにぱくる)ということになろうかと思います。ここから、今ではあたりまえの「ベストプラクティス」「ベンチマーキング」ということが生まれたわけですね。ベストプラクティスを見つけてそれを自社に適用・実行する=ベンチマーキング、という。

ミンツバーグによるマネージャーの「再」発見

ミンツバーグは、その著書「戦略サファリ」で企業の発展段階(発展>安定>適応>模索>革命)に応じて、戦略や組織のあり方やその組み合わせ方は変わるとしました。

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もちろん、ポジショニング戦略でもだめ、ケイパビリティ戦略だけでもだめ、両方さ、フェーズに合わせて使いこなしていこうぜ、というのも、テイラーとメイヨーにダメ出ししていて、胸アツなのですが、私の胸アツはそこではないです。

「ミンツバーグは、実際のマネージャーたちに何ヶ月もへばりついて仕事を詳細に観察し、古典的経営論の常識を否定した。」

はい、ここですね。

・企業で最も大事なのはリーダーではなくマネージャー。彼らの無数の意思決定、行動が企業活動を支える。
・マネージャーの仕事は断片的で瞬間的で雑多である。その判斷の多くは「直感」で行われている。
・よきマネージャーは教室では育たない。

とバシッと言ったところです。リーダー、経営者は、俺が私が偉いんだ、となる人が多いわけですが、いやそうじゃないんだ。君らを支えているマネージャーってのが組織を支えているんだよ、理解しとけよということがミンツバーグの良い仕事ですね。

キャプラン/ノートンの財務諸表ばっかりみてるなよ論

キャプラン/ノートンは「財務諸表による業績管理方法は過去の情報によるものであり環境変化の激しい21世紀の経営には向いていない。」として、バランスト・スコアカードのフレームワークを提示し、多面的な企業評価を行うべしとしました。

戦略マップ [復刻版]―バランスト・スコアカードによる戦略策定・実行フレームワーク
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財務の視点だけではなく、顧客の視点、内部業務プロセスの視点、イノベーションと学習の視点の4つの視点で企業の経営を評価しようとするものですね。今では当たり前やん?という人も多いかもしれないのですが、経営者だけど、財務視点をいたずらに語る人は、キャプラン御大に体育館の裏側に連れて行かれて説教食らうかもしれませんので要注意。

キムとオボルニュの「ブルー・オーシャン戦略」

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「よい戦略とは、敵のいない新しい市場を創り出すこと。」

というところがとても素敵ですね。戦略というのは、戦争を当然原点にしているわけで、戦うこと前提みたいになりますが、そうじゃなくて、なるべくさ、闘わないようにしようよという転換がとても良いです。

また、ポーター御大がずっと主張してきた「高付加提供と低コストはトレードオフである」という主張に対して「いやいや、高付加価値と低コストは必ずしもトレードオフではなく、新しい高付加価値と低コストを両立させることができるし。戦略とは、新しい市場コンセプトの案出とそれを実現するケイパビリティの創造(バリュー・イノベーション)なんだぜ」と言ってやったことも胸がスカッとしますね。

私が以前こちらのnoteで書いた

景気後退局面や、深刻な経営状況の悪化局面において、経営者の意思決定における優先度は、1.捨てる、2.減らす、3.増やす、4.始めるで考えないといけない。捨てることは、始めることと比べると8倍以上の精神力とコストを要する。

については、ブルー・オーシャン戦略の一つのフレームワークをずっと使い続けていることを今思い出しました。汗

そんなわけで、432ページにも渡る本ですが、著者の三谷さんの筆力で、かなり楽しんで読める本です。どうぞお手にとって御覧ください。

経営戦略全史
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