LA試合観戦

<危機到来> 米国からスポーツファンが消える? ~高すぎるチケット価格~

米国といったら日本の皆さんにとって、プロスポーツがとても盛んで、お金が凄い流れている一大マーケットという認識ですかね?
僕も深く関わるまではそういう認識でしたし、日本と比べたら確かに今でも凄く巨大なマーケットです。

ただ、最近様々なデータ・統計を調べていくと、実は米国におけるプロスポーツも安泰ではない可能性がある事が分かってきました。

全米でのチケット価格実態:

先ずその実態をつかむべく、昨年末に米国2番目の都市であり、スポーツが超盛んなロサンゼルスの地元新聞社が執筆した記事を見てほしい。

上記は英文ではあるが、要約すると以下の通りとなる。一言でいうと、「資本主義がスポーツ体験を食い物にしている」という事だ。

<記事要約>
1)  (ダイナミックプライシング等によって)スポーツ観戦コストが近年劇的に上がっている事から、平均的な家庭は試合に行けなくなってきている。

2)  ロス近郊での平均世帯収入(4人家族の場合)が約USD78k (約820万円)であるのに対し、同エリアでのプロスポーツチケット代、及び実際の観戦費用(チケット代+駐車代+飲食代他)は以下グラフの通り非常に高額。
(例:NBAチームのレイカーズの試合に家族4名で観戦に行くと、チケット代のみで一人140ドル要し、合計で約700ドル(約8万円!!)要するとの計算になる。)

3) その為、若者が試合観戦をする機会が減ってきており、結果的に若年層ファンが年々減少傾向に転じている。(注:もちろん若者の注意持続時間が減ってきており、その為にスポーツ観戦が魅力なくなっているのも背景にある)

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確かに米国と日本(特に都市部)での給与の違いはあるが、それをもってしても、このチケット代だと平均的な家庭はスポーツの試合に行けなくなってしまう。これは自分のいるニューヨークでも同じであり、NBAのニックスの試合に行こうとするのであれば、「最低でも」100ドル程度はチケット代にかかり、飲食代とかと合わせると出来上がり150ドルといった金額になってしまう。

このような価格帯になってくると、確かに富裕層か、特別な機会にしか訪れないものとなってきてしまう。自分もニューヨークに住む前は、何試合でもスポーツの試合に行こうと思っていたが、最近はその高額さから行くのを控えているというのが本音だ。その金額を払うのであれば、家でその試合をTVで見たり(TVの高性能化と、OTTの進化は本当にすさまじい。。。)、他の娯楽を探すという方向に行ってしまう。

価格高騰の背景:

価格高騰の背景は明確であり、主に2点ある。1つはチケッティングへのアナリティックスの導入であり、もう一つは、所得格差である。

1)アナリティックスの導入:
これは前章でも少し触れた通り、チケッティングにアナリティックスを導入したからだ。これはスポーツチケッティングに関わらず米国で10年以上も前から主流になっている価格決定メカニズムだが、常にその時々の需給を見ながら価格を決めるアルゴリズムをバックエンドでエンジニアが開発し、それを基に最も利益が上がる価格を決めていくというものだ。

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例えば、NYヤンキースの二階席を100ドルでも買う人がいるのであれば、あえて過去設定されていた20ドルという価格で同じ席のチケットを販売せず、より高価な値段で売りたいとチームからは思いますよね?そうしたら同じ供給物に対し、収益が上がるのみなので。
またチームとしては、例え販売されるチケット数(埋められる座席数)が少なくても、その少ないチケット販売数でより良い収益が上げられたら良いと考えるのは自然な流れである。

本邦ではまだその仕組みがスポーツには入っておらず(注:一部プロ野球でその動きはあるが、実態としては未だ導入には程遠い)、またチケットの2次流通市場すら無い為あまり馴染み無いトピックかもしれない。

ただ、米国でのスポーツビジネストレンドがタイムマシーンとして日本に導入されていく過去事例をみていると、チケッティングの2次流通市場や、1次流通でも需給に応じた価格設定がなされる事が将来的に予想される。

2)所得格差の拡大:

上記にも通ずることなのだが、米国の都市部を中心に起きている所得格差もチケット価格高騰に一躍買っている。

例えばサンフランシスコ(シリコンバレー)だが、ここの住民の平均所得は1000万円超程度かもしれないが、その実態は、3000万円以上稼ぐエンジニア沢山と、数百万円しか稼いでいない一般労働者大勢と、中間層があまりいない構図となっている。その為、富裕層が試合に行きたいと思い、より高価な金額でチケット購入を許容していると、チームや2次流通で再販する人はその高値で販売する事となる。

その結果として、低所得者、平均的な所得者には手が出せない金額へと吊り上がってしまい、ファンは富裕層に限定される構図となってしまう。

この問題が中長期的にスポーツ界に与える影響:

現在NBAを除く多くの北米スポーツリーグでチケット購入者の減少が叫ばれている(一番顕著なのは大リーグで07年に合計79.5百万人も記録した観客数が、今年は68.5百万人にまで落ち込んでいる。)。この流れは勿論チケット価格の高騰のみならず、前述の通りスマホ代等に起因する各人の注意持続時間の減少や、その他エンターテイメントの充実(Esports、ソーシャルメディア、OTT他)も影響を及ぼしていると言える。

ただ、野球ビジネスの分析・コンサルを専門とする大手Baseball Prospectus社調査によると、大リーグにおける過去5年間の観客数減少は、チケット価格の高騰が最たる要因と結論付けている。

そして、今後も中間所得クラスが試合に行けなくなるとすると、スポーツ界にとっては中長期的に大きな打撃となる。米国のアンケート集計会社で、コンシューマー行動の分析を行うSSRS社によると、5歳までにスポーツ観戦を果たした子供は、14歳までにスポーツ観戦に訪れなかった子より、一年間あたり58%も多くの試合に訪れるとの結果も出ている。

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スポーツチームやリーグのファンになるのは、一朝一夕ではなく、長期間に及ぶすり込みが必要である。自分が幼少期にマイケル・ジョーダンを生で目にしてNBAの世界に引き込まれていったのと同じように、やはり幼いころに原体験をする事がリーグ・チームのファンとして引き込む上で重要である。

チームとしては単年度PLを見て、そのシーズンの収益化最大化の為にチケット価格を調整するのはわかるが、やはりボストン・レッドソックスがやっているように、子供や、低所得層向けに安価なチケットを一定枠残しておく事も大事なのではないだろうか。
(レッドソックスは、強豪となった今も9ドルで購入できるチケットを一試合当たり、数百席確保している)

最後に:

どのビジネスでもそうだが、資本主義の仕組みが行き過ぎると、上記のようなジレンマが起きてしまう。

確かにチーム・リーグにお金が無い状態だと夢が無く、また再投資が出来ないためにリーグは繁栄しないが、「金稼ぎ」が行き過ぎてしまうと、中長期的にリーグとして損する結果となってしまう。

過去10年間称賛を浴び続けたチケッティングにおけるアナリティックス・アルゴリズムの導入、またそれによる収益最大化、今後はその逆トレンドでこれをどのように平均的所得者及び若年層の動員と結び付けていくか、要注目だ。

最後に独り言だが、最近TV放映権の値段も高騰を続けており、家でスポーツの試合を見るコストが上がってきている。(米国で主流のケーブルや、スポーツチャンネルが含まれるOTTは最低でも月40-50ドルはしている。)同放映権料が各北米4大リーグにもたらす収益がチケット収入を17年に超えてきている。自分が今危惧しているのは、放映権料の高騰が行き過ぎ、今度はTV/ストリーミングでもスポーツが見づらい商品になってしまうのかという点だ。

商業化とエンタメをどうバランスするか、これがスポーツの最先端を行く米国の次なる課題となるのであろう。

Yutaka
contact@sportajapan.com

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