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見どころ満載!印刷博物館の常設展

 文京区にある印刷博物館は、凸版印刷のトッパン小石川本社ビル内にあります。ものすごく大きい博物館というわけではないですが、見どころ満載の楽しい博物館です。今回は、この博物館の常設展をご紹介します。常設展は写真可なので、写真多めでお送りしたいと思います。


 印刷博物館のエントランスを入ると、いきなり、標題の大きな印刷機がお出迎え。印刷機の横に、当時の印刷の様子を再現した動画がありました。ヨーロッパの古い衣装を着て印刷する人々や、印刷したものを校正する人、それを受けて、版を直して、本番の印刷をするシーンなど見られて面白かったです。このときは気づかなかったのですが、家に帰って調べたら、この印刷機こそ、天正遣欧使節団が帰国の際、積み込んだのと同タイプの木製印刷機であるプランタン印刷機のレプリカだったようです。そして、このレプリカは日本で唯一この印刷博物館でだけ見られるそうです。しょっぱなから、凄く貴重なものが置いてあるのですね。せっかくなので、このプランタン印刷機(レプリカ)を、標題とは別方向から撮った写真も載せておきます。↓

印刷博物館にあるプランタン印刷機のレプリカ

 この印刷機の右手、常設展に向かうロビーには、面白いレプリカが、ずら~っと並んでいます。↓ 

古来人間が刻んできたビジュアル・コミュニケーションの足跡を辿る歴史的資料のレプリカたち

このロビーの展示、じっくり見ていると、永遠に展示室に辿り着けそうにないので、そこそこのところで切り上げて、いよいよ常設展の入口をくぐります。

 常設展でまず出迎えてくれるのは、百万塔陀羅尼です。↓

百万塔、この中に陀羅尼経を入れる
塔身部の高さは13.5㎝、相輪部が8.6㎝で、二つ合わせると21.5㎝になるらしい
陀羅尼経(764~770年)
黄染めの麻紙で、染色は黄檗

この陀羅尼経、木版説と銅板説があるそうなのですが、この展示の横に、銅板でこの陀羅尼経を再現する動画がありました。銅板をつくるのって、こんなに大変なんだ!と驚いたのですが、この動画を見ただけで、すでにお腹いっぱい。先を急ぎます。

 このあと、印刷が経典や摺仏・印仏といったおもに仏教関係で使われながら、応仁の乱を経て、山口(大内版)、静岡(今川版)、鹿児島(薩摩版)というように地方にも印刷文化が広がり、戦国期には、天正遣欧使節によって西洋の印刷機が、朝鮮戦争の際には朝鮮の活版印刷術が持ち込まれ、江戸時代には武家VS公家の出版合戦があって、最終的に印刷が庶民にまで広がっていく流れがよくわかりました。キリシタン版が三冊ほど、タブレットで見られるようになっているのも、面白かったです。↓

キリシタン版「ぎやどぺかどる」(罪人を善に導くの儀也)上巻、
タブレット上で原寸大で見ることができる

 日本のものだけでなく、海外のものも展示してありました。特に印象に残ったものを、いくつかご紹介します。
まずは、グーテンベルグの42行聖書 原葉。↓

グーテンベルグ「42行 聖書 原葉」(1455年頃)

つぎは、ルターのドイツ語訳聖書。↓

ルター『ドイツ語訳聖書』(1540年)
ルターが聖書をドイツ語に訳したことによって、庶民も聖書が読めるようになった

つぎはケプラー。↓

ケプラー『宇宙の神秘』(1623年、第2版)

最後は、ウィリアム・モリスの私家版の印刷物から。

ケルムスコット・プレス『ジェフェリー・チョーサー著作集』(1896年)

ゴージャスかつ美しいですね!
これ以外にも、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版木とその印刷の完成までがわかる展示などもありました。
常設展だけでも大満足☆という感じだったのですが、このあと、更に前回の記事で書いた企画展の部屋が続き↓

企画展を見終わると、最後に、どど~んと印刷工房があって、そこにもいくつか印刷機が並んでいました。写真はその一つです。↓

印刷美術館内の印刷工房とそこに展示された印刷機

この印刷工房は、活版印刷の保存や伝承、研究をされているそうで、この日もスタッフの方が7人ほど(?)いらっしゃいました。予約が必要ですが、工房見学ツアーや活版印刷体験もできるそうで、活版印刷に興味がある方には、とても楽しそうな場所です。
 
 これで、ようやく展示終了と思ったら、最後にキケロ・プロジェクトを紹介する動画が!キケロ・プロジェクトとは、貴重な羊皮紙に書かれたけれども消されてしまった文字を復元するための、化学製品でもなく紫外線でもない、人にやさしい解析方法を開発するものだそうで、ヴァチカン教皇庁と共同研究し、ヴァチカン教皇庁図書館が所蔵する200冊以上の上書きされた羊皮紙の古文書の復元を目指しているそうです。凄いですね!

 以上、盛りだくさんの印刷博物館常設展でした。企画展がないときは、常設展の内容はこれ以上に充実しているそうです。下に、印刷博物館のコレクションを紹介するページを貼っておきますね。今回ご紹介したもの以外にも、面白そうなものがたくさん!↓

 このように見どころ満載の印刷博物館、訪問される時は、半日ぐらい使う気持ちで行かれることをおすすめします。今回紹介することはできなかったのですが、VRシアターも無料で見ることができ、現在から来年(2023年)の3月26日までは、「伊能忠敬の日本図」が上映されています。VRシアターの上映日は、土日と土日に続く祝日。

 興味はあるけれど、遠くて博物館には行けないという方には、印刷博物館編の『日本印刷文化史』(講談社)をおすすめします。執筆者は、印刷博物館前館長の横山紘一氏と印刷博物館の学芸員の方々で、博物館の展示より詳しい解説が楽しめそうです。

(参考資料
☆『日本印刷文化史』印刷博物館編、講談社、2020年)


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