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次の朝は他人 / 同じようで少し違う、出会いと別れの繰り返し

監督:Sang-soo Hong 製作国:韓国 / 上映時間:79分 視聴方法:Amazon Prime Video 出演: Joon-Sang Yoo, Sang-Jung Kim, Seon-mi Song

私はすこし恋愛映画が苦手で(見たとしても振り切ったコメディかLGBTQ映画)普段はなかなか観ませんが、ホン・サンス監督の「次の朝は他人」はいい意味でシンプルで好きです。

例によって主人公は映画監督で女優の卵も出てきますが、恋愛対象となるのは今回はバーのオーナー。しかしわけありです。

あらすじ

舞台は冬のソウル・プクチョン(北村)で、奇妙な出会いと別れを繰り返す映画監督が主人公。映画自体は全編モノクロです。先輩のヨンホに会うためソウルにやって来た映画監督ソンジュンは、ヨンホと連絡が取れずひとり街をさまようはめに。かつての恋人キョンジンと一夜を過ごし、翌日(あるいはほかの日)にようやくヨンホに会うことができたソンジュンは、ヨンホと共に「小説」というバーを訪れます。そこでソンジュンは、キョンジンとそっくりなオーナーに心を奪われてしまいます。


次の朝は他人 / 邦題が示すこと


「韓国のロメール」とも言われ、軽いタッチで男女の恋愛模様を描くホン・サンス作品。「次の朝は他人」においてもその独特の雰囲気が見どころでありますが、さらに注目すべきは奇妙な時間/記憶の扱い方です。

映画において、先輩ヨンホと再会してからの一日が四度繰り返され(たように見え)ます。バー「小説」はいつもオーナーが留守で、ソンジュンたちが飲み始めてから遅れて現れます。そこでは必ずソンジュンとオーナーの間で「はじめまして」とあいさつが交わされ、ヨンホとも全く同じ会話をします。しかし毎回少しずつ状況が異なることで、ソンジュンは奇妙な出会いと別れを繰り返します。

最初の日は「小説」で教授のポラムと出会い、オーナーが元彼女とそっくりであることに気づいたソンジュンは動揺を隠せません。落ち着きのないソンジュンは煙草を吸いに外に出ます。オーナーも外に出てくることを心のなかで願いますが結局出てくることなく場面は変わります。

また別の日、同じようにポラムとヨンホと三人で「小説」を訪れます。同じようにオーナーは遅れてきて、「はじめまして」といいます。いつかと同じように煙草を吸いに外にでて、オーナーを心の中で待っていると、出てきたのはポラムでした。

また別の日、元俳優であるチュンウォンも交えて四人で「小説」へ行きます。またいつかと同じように煙草を吸いに外にでると、元彼女からメールが届きます。するとちょうど読み終わるころにオーナーが出てきて買い出しに行くといいます。ソンジュンは彼女についていくと、雪の降る帰り道、当たり前のようにキスをします。(まんざらでもないオーナーも不思議)

さらに別の日、同じように四人で「小説」を訪れいつもと同じ会話が終わった後、同じように煙草を吸いに外に出ます。同じようにオーナーがでてきますがソンジュンは一度送り出します。しかし元彼女のメールを見て思い立ちオーナーの後を追います。雪は降っていませんが、あの時と同じようにふたりはキスをします。その後酔いつぶれたチュンウォンをタクシーに押し込み、ポラムとヨンホと別れた二人は「小説」に併設されたオーナーの家で一夜を共にします。次の朝、二人は「もう会わないほうがいい」と連絡先も交換せずに別れます。

同じようで少し違う些細な出来事の繰り返しはまるでソンジュンが書き直す脚本のようであり、「もしこうだったら?」というソンジュンの想像とも取れますが、邦題の通り、次の朝になると「他人」としてリセットされるソンジュンとオーナーの関係からすると一続きの出来事のようにも思えます。

ホン・サンス作品ではこうした時系列や記憶のトリックが多く使われている印象をうけますが、それが単調ともいえる彼らの恋愛模様に独特な雰囲気を与えています。


心地よい「ダラダラ」会話劇


「パターソン」や「ナイト・オン・ザ・プラネット」のジム・ジャームッシュが好きな人はきっとこのホン・サンス映画の独特の会話のリズムも好きなのではないでしょうか。(ホン・サンスの場合は不器用な男たちのもどかしい恋愛模様が描かれていますが)

ホン・サンス映画においては映画監督と女優の関係性が描かれることが多く、その主人公や出来事を自らに重ね合わせているかのようです。このリアルな会話劇を生む特徴としてはそのテーマに加えて撮影方法にもあるといえるでしょう。

どの映画位においても役者たちのリアルな話ぶりが魅力ですが、ホン・サンスは撮影にあたって、台本をその場で役者に渡します。またホン・サンスの独特すぎるクローズ・アップは、その「会話の流れを止めないこと」を目的としているそうで、長回しと会わせて会話に緩急をつけています。ある時はものにフォーカスし、会話に入れない主人公の顔にも突然フォーカスする。さらに「次の朝は他人」の場合主人公の心情を声で表現したボイス・オーバーが多用されています。この様子を見ていると、まるで見ている自分も周りの会話が聞こえなくなり、主人公のあたまの中に入り込んで同じように考え込んでしまうような感覚さえ覚えます。


まとめ


どこか奇妙な些細な出来事の繰り返しとゆったりとした会話劇が魅力の現代韓国のモノクロ映画「次の朝は他人」。(珍しく)邦題がかわいらしくて、また映画にピッタリだなと感じました。恋愛模様だけでなく多くの人との不思議な出会いも描かれているので、恋愛映画が苦手な人にもぜひ挑戦していただきたいです。一本80分程度と短いこともあり、ちょっとした暇な時間にサクッと観ることをおすすめします。


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