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音楽講師に必要な「人間力」の話

音楽の講師をはじめて今年で10年目になります。この経歴が長いのか、短いのか分からないけれど、この期間に学ばせていただいたことはたくさんあります。
特に私の場合、今でこそ講師という仕事を自分の天職と考えていますが、過去自分ほど講師という仕事に相応しくない人間はいない、と思い詰めていたことがあったからこそ、講師として生きていく上で大切なことについて繰り返し考えてきたつもりです。

講師をはじめたばかりの頃は、大手音楽教室でレッスンをしていました。思うように生徒さんがつかず、体験レッスンを通し入会下さった生徒さんも気付けば同じ教室の先輩講師のレッスンを受けるようになっていたり、うまくレッスンを継続してもらえず退会が続いたり。当時の私は自分の実力不足を痛感するばかりでしたが、なんの「実力」が不足しているのかすら、きちんと理解はしていませんでした。
私なんて先輩方の経歴には足元にも及ばない、有名な音楽大学を出てもいない、海外に留学したこともない、驚くような大きなステージに出たこともない、きっと歌の実力だって遠く及ばないはず。自信さえないような私に生徒さんがつくわけないよなあ、と思っていました。単に技術・経験不足なんだと思っていたわけです。
うまく生徒さんがついていないのは上司も気づいていて、色々とアドバイスをくれました。ですが、当時の私には自信がないこと自体悟られてはいけないというような謎の強迫観念があり、積極的に相談することもできず、先輩のボーカル講師陣にも経験不足を悟られまいとしていたところがありました。こんなやつにうちの生徒はまかせられん!と思われやしないか、とビクビクしていたわけです。
いやあ、改めて書いて思いますが、なんと格好悪い。だから当時の先輩・同僚の皆さんとはうまくコミュニケーションが取れず失礼なことをしたと思います。

経験不足がいけないんだ、などと思い込んだところで、明日の私も明後日の私も経験不足でしかなく、いい加減自信が底をつきかけていたころ、ある会議で先輩の講師がぽろっと言った言葉がありました。
「大切なのは人間力だよね」
人間力?当時の私の頭には???がたくさん浮かびましたが、なんとなく、自分に足りていない力はそれでは?と思ったのです。人間力というときっとこれを読んでいる方も???と思うかもしれませんが、今の私が別の言葉でそれを言い換えるとしたら
「一人の人間として魅力的であろうとすること、そのパワー」って感じかな、と思います。
(ちなみにその気づきを下さった先輩というのが現在我が音楽教室「CREA MUSIC」の河内長野校で指導をしてくださっている しんのみか先生でございます)

結論として、当時の私に足りなかったのは「経験」でも「技術」でもなく、人としての魅力、そして魅力的な人間になろうとする意志、だったなと思うわけです。大きく括ってしまいましたが、講師を名乗るなら、生徒さんにとって「この人は人間として魅力的だな、魅力的であろうとしているな」と思ってもらえる存在でないといけないと思うんです。技術と経験が発揮できるのは、その前提条件が揃ってからだと強く感じます。

自分なりにその「人間力」を培わなければ、と思いながらこれまで音楽の講師をやってきて、じゃあ人間力を培い発揮するために大切な要素はなんなのか、自分の考えを改めてここに残して置きたいと思います。

自分を相手に開示すること

一番最初に大事なのはこれだと思います。自分はどういう考えや思いを持っているのか。何を大事にしているのか。どういうレッスンをしたいと思っているのか。自分のことを相手にきちんと丁寧に伝えること。不必要に隠さないこと。
私はまずこれができていませんでした。経験不足を相手に悟られてはいけないと思い込んでいて、自分のことをできるだけ隠してレッスンをしていたように思います。
自分のことを語れ、と言ってるわけではなく、レッスンを提供する限り相手からは何か情報を引き出さないといけないわけなんだから、相手に心を開いてもらう必要がある。ならまず自分を開示すべきだと思うんです。私はこうですが、あなたはどうですか?と。
今となっては当たり前のことですが当時は気づきもしませんでした。

ちなみに当時の自分が経験不足を隠さないといけない、と思い込んだのは理由がありまして……私は昔エステでバイト勤務しており、その時に店長や先輩方から「新人だと悟られるな!」と言われていたんですね。「前は〇〇店で働いていました」と嘘を言いなさい、お客さんは新人を回されるのを嫌うから、と。
その頃の刷り込みが変に働いて、ベテランと同じ振る舞いをしないといけないと思い込んでしまったのでした。

ですが、嘘をつくことなく、自分の経験・体験・考えをきちんと言葉にし、生徒さんに、仲間の先生方に開示するようになってから、人とのコミュニケーションの質がガラッと変わりました。相手が私に興味を持ってくれるようになったし、そして何より次に大事な「相手に興味を持つ」ができるようになりました。

相手に興味を持って接すること

これこそ当たり前!なんですが、講師としてうまくいっていない人の多くが生徒さんに興味を持って接していないように思います。この生徒さんはどんな風に演奏できるようになりたいのかな?どんな感性を持っているのかな?どんな音楽が好きなのかな?普段の生活はどんな風に過ごしていて、どんな仕事をしていて、どうして音楽をしたいと思ったのかな?
ここへの興味が薄い先生に生徒さんはつかないし、継続もしてくれません。それはそうですよね。誰もが自分に興味を持ってくれる人のことを好きになります。あんたに興味ないよ、なんて顔した人に逆に興味を持てと言われても無理に決まっています。
ちなみに相手に興味を持つことと、自分のレッスンに興味を持つことは違います。講師としてうまくいっていなかった当時は相手に興味を持っているつもりで、自分のレッスンにしか興味がなかったんだと思います。自分のレッスンに相手がどんな反応をするか、満足してくれているかどうかばりかりを気にしていました。
もちろんそれも大事ですが、「相手自身」に興味を持つこととはまるで違います。まず、第一に生徒さん本人に目を向けるべきだったんですね。

自分自身の「やりたい」「知りたい」を大切にすること

それと、私は講師こそ自分の「やりたい」という気持ちを大事にすべきだなと感じています。あんなことをやってみたい、こんなことをはじめたい。そのためにあんなことを「知りたい」、あんなことを「学びたい」。この気持ちが薄れれば薄れるほど、生徒さん達との間に溝が生まれると思います。
生徒の皆さんは「やりたい」という気持ちを胸に抱いて教室の扉を叩きます。講師は何よりも「何かをやりたい」と思ったその生徒さんの気持ちを大事にすべき、しっかり理解すべきだと思っています。
「教えて欲しい」と思うのは「やりたい」ことがあるからです。目の前の「これってどうすればいいですか?」という質問に「こうしたらいいよ」と答えるだけのやりとりはレッスンではないと、私自身は思います。「教えてほしい」「教えてあげますよ」ではなくて、なぜそれを教えて欲しいのか?それを教えてもらうことで、何をやってみたいのか?そこを汲み取って、「やりたい」ことの実現にむけての様々なアプローチを検討する。それが講師のすべきことだと思います。そうじゃなきゃGoogleとYoutubeでいくらでもレッスンの代わりなんかできちゃうじゃん、と。
「やりたい」をまっすぐ受け止めるには、自分の中に「やりたい」を持っていないといけない。やりたいことをやろう!知りたいことを知ろう!そういう前向きな気持ちがなければ、生徒さんの気持ちを受け止められないのではないかと思うのです。
私は講師になった時、自分の「やりたい」を宙に浮かせたままでいました。目の前のことに必死で、頭が硬くなってしまい、前向きに先のことを考えられなかったからです。
でも周りの魅力的な先生方はいつも、次はあんなことしてみよう、こんなことしてみたい、といつも前向きなパワーで満ちていました。やりたい、がある人はキラキラと魅力的に見えます。
だからこそ、今はまず自分の「やりたい」を大事にしよう、と思っています。
自分がやりたい、と思えば、生徒さんのやりたい、を理解できるはずです。
(ちなにやりたい、は音楽に関わることでなくてもいい、と思っています)

身も蓋もない「講師」の必要条件

講師の必要条件って、実はこの3つだけなのでは?と思ったりしています。
いやいや、技術がいるでしょう、経験もいるでしょう、と思いますよね。もちろんそれは備えているべきですが、実際仕事として講師という職業を成り立たせ、継続して生徒さんにレッスンを提供していくために必要なことってこれだけな気がします。
これさえできていれば、生徒さんの求めてるものも自ずとわかるし、とるべきコミュニケーションも見えてくるし、必要な配慮もできるはず。
実際は生徒さんが「この先生のレッスンを受けたい!」と思ってくれるかどうかはここがしっかりできているどうかだと思います。
でも実際この3つをベースに持ちながら、生徒さんと丁寧に濃密にやりとりしながらレッスンを行うということは一番難しいことだと感じます。本当に難しい。
なんなら技術も経験もあるのに、この3つがごっそりかけている人も珍しくありません。そういう人はどれだけ音楽家として素晴らしくても、講師として成り立たないことが多いです。

これが私が今だからこそ思う「講師の人間力」です。
というわけで、この3つさえあれば講師を名乗ってやっていくこと案外できてしまうものですが、だからこそ私自身は技術も経験も、自分を律しながらきちんと積み上げていかないといけないとも思っています。常に技術や感性を新しくし、自分より素晴らしい技術を持った音楽家の皆さんにめげずについていこうとしないとな、と。

講師は音楽家のお小遣い稼ぎじゃないよ

そして、これだけは本当に心から思うのですが、講師は音楽家が空いた時間でやるお小遣い稼ぎではないです。
自分のために講師業をやろうとする人は、たとえレッスンという形式は取っていても、レッスンを提供することはできないし、講師にもなれないと思います。
もちろんミュージシャン活動がメインでいいんだけど、講師業をするからには、レッスンをするからには、主役は生徒さんで、講師の一挙手一投足は生徒さんのためにあると理解していないといけません。実はその心構えがない、という人も案外いるのかもしれないな、と思ったりもします。

音楽講師10年目に入り、自分の音楽教室に何人もの先生方に所属していただくようにもなりましたが、まだまだ自分はこの世界で未熟者だと感じていますし、思い悩むこともたくさんあります。もっと生徒さんに対しできることがあったのでは、と後悔することもあります。

だからこそ、これからも先輩に教えていただいた「人間力」を自分なりに噛み砕きながら、精進し、講師業を続けていきたいと思っています。


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