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着付けの没入感とモンテッソーリ教育

着付けをしている時の何が好きかと言われれば、その没入感である。お教室の生徒さん達と話をしていても、仕事が忙しい方に限って、突然夜中に着付けに熱中したとか、休日に気がつけば何時間も着付けに没頭していた、などという話になることは珍しくない。

自分で着物を着る時。そのもう染み付いたとも言える決まった手順に手を動かしながら、思考を無にする。今日はお腹の調子がイマイチだから、腰紐のすわりが悪いな、などと体調や着付けの調子を感じつつも、余計な思考は彼方へ飛んでいく。それは、とても心地良い時間だ。

人に着付けをする時もそうだ。まだ修練が足りない間は、足りない頭を巡らせ、あれやこれやと考えながら着付けをしていた。しかし、その段階を越えてスキルが身に付くと、考えるより先に手が動く。そのテンポで着付けることができれば、着付けはその人の体にぴったりと沿う。

没入できるほどの繰り返し(練習)は必須だが、ひとたび習得してしまえば、着付けはその人だけの特別な時間をもたらす。

その没入している状態を「ゾーンに入る」「フロー体験」などと呼ぶらしい。調べてみれば、心理学用語だ。育児本にもよく登場する。
幼児もそのくらい集中して遊んでいる時に余計な声かけをせず、そっと見守ることを繰り返せば、成長に従って得難い集中力を獲得するという。果たして息子の集中力は、順調に伸びている。

先日モンテッソーリ教育の教室を息子と訪れた。モンテッソーリ教育は、「おしごと」と呼ばれる作業を通じて、フロー体験を繰り返す。その集中は、自己肯定感を高め、自発的な活動により発達を促していく。マリア・モンテッソーリが100年以上も前に提唱し、さまざまな分野で証明されてきた、優れた教育法だ。

息子のフロー体験を改めて見守っていたら、なんだか着付けに似ているなと思った。大人になってもフロー体験が味わえる、着付けはある種贅沢なあそびである。

★きものスタイリスト 森 由香利★
Yukari Mori Kimono Studio
Instagram: @yukarin_kimono
公式Line: https://lin.ee/OHPyC3n

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