見出し画像

『令和源氏物語 宇治の恋華』解説/親心<後編>

みなさん、こんにちは。
次回『令和源氏物語 宇治の恋華 第二百七話 小野(一)』は、8月7日(水)に掲載させていただきます。
本日は第十二章/親心<後編> について解説させていただきます。


 二条院へ

こじれにこじれて、夫の仕打ちはますますエスカレートしてゆき、婿と婚礼の調度品を横取りされただけではなく、宮の姫が住む対の棟をも奪おうという魂胆です。
困り果てた北の方は姫とは腹違いの姉であり、自分とは従姉妹にあたる匂宮の夫人・中君に助けを求めることにしました。
この時には薫大将から宮の姫への求愛が仄めかされており、帝の婿である大将とはあまりにも身分が違うことに困惑していたのです。
中君はすでに天涯孤独と思っていた身に今一人の妹がいたことを喜びます。
そして二条院へと迎えることにしました。
ここでやはり気になるところいえば、夫・匂宮の女癖の悪さです。
少しでもきれいな女房には片端から手を着ける気性で、それを何ら悪いこととも認識していないのです。
そして女人に対する勘が異常に働くタイプですので、預かる妹を危険な目に遭わせられないと気を配ります。
自分の対の端の人目につかぬところに姫のための小部屋を設えさせました。
まったく中君はこの夫の為に気苦労が絶えないのです。

 匂宮

中君があれほど気を遣っていても、気儘な宮は女房達の局を気軽に覗いて歩いたりする困った人です。いつもと様子が違うと感じるや、何か隠されているのではないかと、異様な勘を働かせるのです。
そもそも見慣れない常陸の守の北の方の車や隋人に違和感を感じたのでしょう。薫が中君を慕っていると看破しているので、嫉妬のあまり薫が忍んできているのではあるまいか、と疑うのです。
匂宮は自分の行動の範疇でしか物を考えない人ですので、薫がそのようなあさましい振る舞いをするわけがないと考えが及ばないのですね。
そして傲岸な皇子は女人を手折ることを何とも思わず、何の気なしに見つけた美しい姫を素通りすることはできませんでした。
宮の姫は無垢な姫でしたので、袖を引く男を気持ち悪く感じたことでしょう。匂宮はすぐに装束を脱ぎ捨ててやる気マンマンなのです。
幸い乳母が気付いて間に割って入りますが、老女が顔を怒らせているのなぞどこ吹く風、といったふてぶてしさです。
もしも乳母が中君の妹であると咎めても仏罰など恐れる宮ではありません。
(平安時代では姉妹を等しく夫人とすることは御仏の法に悖るとされました)
この大事を切り抜けようと乳母は灯りをつけにきた右近の君に助けを求めました。
まったく困ったことになったと悩む中君でしたが、宮の母である中宮のお加減がよろしくないと内裏から使いがきたので事なきを得たのでした。
このことは薫には伏せられ、後に浮舟が宮と通じていると知った際にすでに二条院で二人が逢っていたのだと薫は誤解します。
愛する二人を裂いたのは自分かと苛まれるのですね。
匂宮の行動はいずれ帝に、という輝かしい将来を自ら潰すことになります。
なんとも愛を軽んじた人の顛末ということになりましょうか。

明日は『令和源氏物語 宇治の恋華』解説 第十三章/浮舟<一>を掲載させていただきます。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?