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『令和源氏物語 宇治の恋華』解説/第15章<翳ろふ>後編

みなさん、こんにちは。
次回『令和源氏物語 宇治の恋華』第二百二十一話は9月4
日(水)に掲載させていただきます。
本日は第15章解説/<翳ろふ>後編を掲載させていただきます。


 報いを受ける匂宮

浮舟を亡くした宮の悲しみはそれは深いものでしたが、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうという稀なる特技を持っております。
元々それほど物事を深く考えない性質なので、「去った恋を忘れるには新しい恋」しかないと変わらずに奔放な恋愛に身を委ねます。
浮舟との恋はいっときの熱病のようなもので、彼女には残酷な話ですね。
匂宮に手折られた女性たちを思うと不憫でなりません。
匂宮の行いは密かに漏れ出て、とうとう母親の明石中宮の耳にまで届くのです。
自分の妻の妹にまで手を出すあさましさ、そしてこともあろうにその姫は薫の想い人であったというのも中宮は腹に据えかねます。
甘やかしたばかりに自制することもできない我が子をとうとう見限りました。中宮は口にこそ出しませんでしたが、この皇子を帝にすることはこの国の為にはならないと判断したのでした。
母親の冷徹な心を知らない宮は相変わらず蝶が花を渡ってゆくようにふわふわと地に足が着いていないのです。

 「翳ろふ」というタイトル

源氏物語の第52帖の帖名は「蜻蛉」です。
この帖名を表した歌が記されております。

 ありと見て手には取られず見ればまた
      行方も知らず消えし蜻蛉(翳ろふ)

(すぐそこにあるように思われても手を伸ばせば消えてしまう。我が物としたと思った途端に行方も知れずに消えた蜻蛉<浮舟>よ。あなたが去った世が翳っていることをご存知か)

私はこの帖名を「翳ろふ」という当て字をすることにしました。
薫の心情を表す章でしたので。
大君に継いで浮舟を失い、何を見ても儚く感じ、虚ろなのです。
そしてまた御仏に心を寄せる薫には試練のような出来事が起こります。
それは美女と謳われる女一の宮を垣間見てしまうこと。
その天女のような麗しさに心を揺さぶられた薫は、妻であり女一の宮の妹である女二の宮に同じ格好をさせたりと、どうにも詮方なきことをしてしまいます。
しかしその愚かな行動もすべて虚しきものであると自嘲するのでした。



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